劇場

「ラボ20#24」キュレーターによる総評/ラボ・アワード決定

2025年4月04日

#24キュレーター康本雅子による総評と、ラボ・アワードの受賞者を発表いたします。


この4組にしてよかった!バラバラ最高!これぞラボの豊かさよ!チケット代の元は充分に取らせたと思う、みんな有難う、以上!

さて、ここからは個別の講評を書かないといけないらしいのですが、
私もう誰かを評してる場合じゃないんで‥それぞれが辿った経過に焦点を当てつつ、一人のプロ観客として好き勝手言わせてもらうが最後の仕事とさせて頂きます。

【AtannT】
オーディションからの飛躍度という点において、見事にジャンプしたと思う。
中間発表までは、作品のコンセプトは明確にありつつも実際どう作るのかの方向性がブレていた感じがあったけれど、最後の稽古見せでは「これで行く!」という冒頭シーンのセンスに痺れた。
偶然訪れるかに見えるアイデアというのは考え続けたその先にしか降ってこないもんなんで、そこをちゃんと潜り抜けたんかなと。
青柳くんと大西さんは自分たちのやりたい事を的確に現せるテクニックを持っているし、動きの質の個性からも今回の手法はとてもハマっていたと思う。
音の使い方も潔く無駄がなくピシャリだった。
初日が開いてからも、ちょっとでも変えるべきところは変えていく挑戦をしていたのも頼もしかった。
実際そのおかげで作品も良くなっていったので、幕が開いて観客の目線に晒されてからじゃないと気づかない事があるってのを改めて思いました。
作品について欲を言うならば、一回めの暗転のタイミングにこちらの体感が追いつかなかったり、ラストの青柳くんの踊る時間がもっと欲しかったりと、時間感覚の操作においてもうちょい!と思わせるところはあったけど、20分枠だから詰めてしまったのかも、、?
そこも含めて映像表現の手法ということで言うとまだまだ他にも遊べる可能性があるので、是非長尺で作ってみて欲しいです。
そして観客というものは欲深いもんなので、、、踊れる身体を見るとどうしてもあーなった姿こーなった姿も見たくなっちゃうんで、その変態しうるポテンシャルについても興味が尽きません2人です。
ち、なみに。
作品のための身体、というのは作り手にとっての手段。それを飛び越えちゃうんが踊り手としての醍醐味で。
2人のように自分で作って自分で踊る自作自演の人たち(殆どの人がそうか)は、自分の中で常に追いかけっこしながら、自分にツッコミ入れながらやるしかない。
そしてそれは自分の知らない感覚に出くわすための、楽しくも儚い作業でもあると思っています。
これからの作り続ける人生において、休むことも恐れずに、脇目ふることも悪びれずに、踊りたい欲求を捕まえていって下さい。

【天野朝陽】
実はオーディションで、何の迷いもなくこの人を取ろうと思った唯一の人でした。
踊ることに対しての身体の素直さと、作品を作りたいという事の間に乖離はあったけど、そこをどう埋めていくかの未知数にこわごわ期待した。
そしてその期待通り?天野くんは迷走しました。
2回の稽古見せではその時々の方向性によって作ってはいつつも、構築していく軌跡が見えて来づらく、なかなか助言も出しにくかった。
半年間という時間がある中、当然ながらやめたり変えたりは起こりうるけど毎回リセットしちゃうと立ち上げが大変なので、そこは勿体なかったかと思う。
その迷走があったからこそ、原点に立ち戻れたんだろうけども。
とは言えお客さんは経過なんて知ったこっちゃなく、その日舞台にあるもんだけを観る訳で。
そういう意味では天野くんは、創作期間なんてものともせずにダンサーとしての資質を存分に撒き散らしたと思う。
何ならもっと踊り倒してもよかった。
動きに没頭しているダンサーを見ることに没頭できる時間というのはそんなに、ない。
舞台上で没頭という行為が成立するかはヒリヒリラインだけど、それを束の間忘れさせてくれたのは眼福でした。
踊りたいから作ってるのか、作りたいから踊っているのか、動機の出はどこでもいいのだけど、もしも踊りたいが先にあるのならば、テーマやコンセプトは一旦さて置き、自分という素材を冷酷に客観視した上で自分の武器をどう料理したら面白いのかってな具合に逆算から作り始めるのもいい気がします。
その手は2度は使えないけど、初動としてはアリだし天野くんのそれは見てみたい。
踊ることに対しての身体の素直さというのは、経験を積めば積むほど持ちにくくなるような気がしています。
それは見せるもんじゃなくただ見えてしまうもんなので、作品の出来とは別の話なのですけど。
なので、今しか踊れないものがあるとして、まずは穴が開くほどの直球投げてみちゃどうですか。
それを経た上で、作る基礎体力というのは続けていれば後からついてくるもんだと思う。
大丈夫、天野くんには強い下半身としなやかな上半身がついている。

【遠藤七海】
ソロだけどデュオな作品。
受肉とかアバターとか姥捨とか、面白くなりそなモチーフを並べつつもそれを作品のためにどう使うのか、なかなか難しい作業だったかと思いますが、よくぞ積み上げました。
途中経過で創作中の悩みを聞く機会がありましたが、遠藤さんは自分の今の状況の何が問題であるかの根本を言語化して人に伝えることが出来る人、という印象でした。
このことは、作品を作る上で案外関わってくるように思う。
つまり今の時点で自分がどこにいるのか、今後どの辺りまでいく必要があるのか、そのために何が為されていないのかをある程度は把握していることが、作品を仕上げていくことにおいて現実的な拠り所となると思うから。
ダンスってもの自体がそもそも抽象的なんで、自分の中で言語化しないまま作ろうと思えば作れちゃうんだけど、人に見せるという目的が最終的にあるならば、そういう建設的な視点を持っておくのはいいなと思う。
例えば右手を挙げる振りがあるとして、そこに理由がいる人といらない人がいて、遠藤さんは前者であったように思う。
稽古の時に一度振付ノートを見せてもらった事があるのですが、その緻密さ、整合性に驚いた。
その位考え込まれている振付とも言えるし、逆の見方をすると身体を信じていないようにも。
その信じていなさが意図的であれば意味を成すとは思うけど、そうでなければ弱さに繋がってしまうところがあったように思う。
観客ってのは何故か、その作り手が信じているかどうかが途端に分かってしまう(言語理解はしないけど、その空気を捉えてしまう)
遠藤さんのダンスは、身体の見た目の質感と実際の動きの質感においてのギャップが面白さに繋がっていて、なんか記憶に残るんですね、その事に遠藤さんはもっと自覚的になっていいような。
つまり頭で作る部分と身体に任せる部分のバランスを獲得していくと、もっと楽になって結果説得力のある踊りになるんじゃないかなー。
ダンス作品において論理性ばかり頼りに作っていると頭打ちになるんです。足りないんです。
それを食っちゃうくらいの身体の必然性が、が、が、必要なんです。
だって観客はホントのところ、ダンスを見て何かを理解したいなんて思ってないから。
ただ震えたい。少なくとも私はそういう期待を持ってダンスを見に行ってます。
だから、いつの日か、そのお身体でお願いしますね。

【オフィスマウンテン】
いつも面白かった。
まず6人6様がそれぞれの原理で動いているという事自体が油断なんない、台詞回しはラップにも現代音楽にも聴こえてくる妙があり、予測不能のノリが生まれそーうからの生まれるぅ瞬間をライブで見守らされる状況に、こちとら巻き込まれ。
がしかし、いつも15分くらいまでは面白いなぁって見てるんですが、ピークを超えると段々こっちの温度が下がってくる現象をどうしたら。
面白さの構造が分かった途端、この面白さは着実にこの後も続くのだろうという安心感が、、、くるの?
彼らが、脳と身体をフル稼働させて動かされて泳いでいる、その一挙一動全てを晒してる姿はひたすらに明るい。
踊らされてかく汗は時にエロい。
が、しかしここはラボなのを思い出すに、
もっと挑戦して欲しかったなー!とだけ、しつこく思う。
したのかな?したのです?稽古経過をツブサには見れてないんで分からない。
でもとにかく最終的に出てきたものは、挑戦度においては乏しかったように思う。
や、彼ら一人一人の中にはあったと思うけども、てかいつも挑戦込みで演ってるのだろうけども、そうじゃなく作品としての挑戦が。破壊が。
私の知らぬ所で行われていたのだろうか、、?
想像するに、やはりもとある作品の面白さの担保は外せなかったのかなとか、それなくしてダンスにする事の欲求が全員違っていたのかなと。
白状するに、今回、ダンスにするという事において一番執着していたのは私かも知れん。
あとオフィスマウンテンの良さは、観客をリラックスとフラットな身体で居させることにもあると思う。
これは案外意識されていない事かもですが、劇場で何かを見せる側としては考えた方がいいことなんじゃないかと。
客席にまで及ぶ振付をどう考えるか、劇場ってただでさえ不必要に緊張を強いる空間なんで、それ一旦解いた方が観客の共振力と集中力は10増すと思うんです。
ダンスは共振してなんぼやと、個人的には思う。
つー訳で面白かったよ。

 

さて。
アワードとは何を基準に選べばいいのだろ。
皆作り手としての出発点がまず違い、今いるステージも違う。そしてそれぞれ良かったところの評価軸がバラバラ最高なので悩ましい、、、が、これはコンペじゃないんで作品の完成度は一旦脇へおいていいですか。
ラボの趣旨に立ち返って考えるに、やはりここはラボを使い果たしたという点においての成長度合いなのかなと。
そしてこのアワードが次回公演の機会を与えられる事を考えると、今まさに作るべきタイミングにいるであろう人(応援したい人)を選ぶほかなく。
ということで、ラボ・アワードは遠藤さんへ贈ります。
ぜひ間髪入れず、次作を作って下さい。遠藤さんなら、一筋縄では行かない着眼点での創作をしてくれるだろうと、勝手に乞うご期待しています。

最後に。
皆さんを知れて、関われて本当に良かったです。
皆さんのお陰でこねくり回して考えたこと全部自分に跳ね返ってきています。
この貴重な時間を持てたこと、萩谷さんやスタッフの皆様も含めてどうも有難うございました。
ラボ20はマジすげーいい企画。
こんなに丁寧に実践までアレコレ出来るのはそうないよ、託児無料なんてまずないよ。

#24キュレーター 康本雅子


#24ラボ・アワード受賞者は遠藤七海さんに決定いたしました!
遠藤七海さんには副賞として作品発表時の会場提供や制作サポートを行います。
今後の展開にぜひご期待ください。

「ラボ20#24」の約半年間のプロセスにお立会いいただいたみなさま、ご協力いただいた皆様に厚くお礼申し上げます。
参加アーティスト・関係者の今後の活動にも引き続きご関心お寄せいただけましたら幸いです。

STスポット

【クレジット】
『ラボ20#24』
キュレーター:康本雅子
参加アーティスト・作品:AtannT「LIVE MOVIE」 天野朝陽「Hazy Jive」 遠藤七海「婆美肉考」 オフィスマウンテン「トリオの踊り」

企画制作・主催:STスポット

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