2017年11月06日(月)12:52STスポット
「ST Spot 30th Anniversary Dance Selection」第三弾は、山田うん×楠田健造『生えてくる』です。かつてSTスポットで働いていた山田うんさんは、若手ダンサーのためのダンスプログラム「ラボ20」を企画するなど、STスポットにとっては魚と水の関係と言っても過言ではありません。この公演は山田うんさんに出演をご依頼したところ、「楠田健造さんとのデュオ公演にすることはできないか」というご相談を頂き、このような形で実現する運びとなりました。この特別な公演に先駆けて、山田うんさんからコメントを頂きました。
「生えてくる」二人のダンサーの間にペンペン草が生えてくるのか? 頭山みたいに頭から桜の木が生えてくるのか? 生えてきます。「はえてくる」じゃなくて。「映える」じゃなくて。生えてくるんです。
1996年私が初めて行ったダンス公演はSTスポット。冒頭は楠田健造ソロで始まった。ほとんど真っ暗闇のような明かりの中の冒頭20分、黒い衣装、泥の中のうなぎのように踊ってくれた。美しくて素晴らしかった、ということ以外詳細はあまり覚えていない。ビデオにも映ってない。暗闇の中の黒い服だから。
1998年私が初めて行ったソロ公演はplan-B。稽古はSTスポットで行った。舞踊評論家の合田成男氏が酒の入ったごつい湯呑みを片手に稽古を見に通ってくれた。公演の当日、照明担当は楠田健造。照明などやったことのない彼は緊張しすぎてフェーダーをおそるおそる慎重に操作する。そのため照明はなかなかつかなかったのだが、それが鈍臭い私の踊りを隠してくれてよかった。この公演のことはそのこと以外あまり覚えていない。
その頃の私には、誰よりも鋭く耳と目を使って視線を与えてくれる人が必要だった。それは楠田健造だった。彼にはアドバイザーとかドラマツルグという役割があるわけではなかったし、それに彼は特別気の利いたコメントをくれる人でもなかった。彼の存在、視線が必要だった。簡単に拍手もお金も答えも欲しくなかった。
2017年ブリュッセルで『生えてくる』のクリエイションを行った。クリエイションというと、何かきちんと箱にはいるような作品を作る過程の創造的な現場のように聞こえるが、そうではなく、毎日が丁寧なとりとめのない舞踊の練習だった。同時に、窓の外からきこえる鳥の声、光る埃、天井の隅、それ以外。一緒に踊るパートナーとして時間を預けられる、信頼する、が、信用ならない彼は、素直でロックで不安をかきたて、格好いいのか悪いのか、判断をさせない最高のダンサー。私たちの稽古場には毎日100年分の月日が流れた。毎日、毎日、そこからしか始められない、そこからしか生えてこれない、という種の場所を探して。
ST Spot 30th Anniversary Dance Selection vol.3
山田うん×楠田健造『生えてくる』
日程 2017年11月17日(金)〜19日(日)
振付・演出・出演 山田うん 楠田健造
詳細 https://stspot.jp/schedule/?p=3841