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Aokid×西井夕紀子×涌田悠「ひとととととり」稽古場レポート(手塚美楽)

2026年3月04日(水)22:59STスポット

まなざしが交差する場として、『ひとととととり』では、稽古場公開に加えて、アーティストにもクリエイションに立ち会っていただきました。その過程で生まれた出来事をそれぞれの視点から綴っていただきました!
第一弾はアーティスト、歌人の手塚美楽さんです。


1日め🥚
はじめて『ひとととととり』の稽古場に来た。この日は、涌田さん、西井さん、Aokidさん、STスポットの萩谷さんがいる。座席の配置決めから稽古はスタート。Aokidさんのことは、数年前の地べた音楽祭で野原でスイマーになっているところを見たことがあった。座席決めの中であんまり喋っていなかった西井さんはSTスポットの床で、横座り(お姉さん座り)をしながらあったかいコーヒーを飲んでいる。Aokidさんが西井さんに「喋ってないけど、もしかしたら?なんか案があるかも?」と聞くと西井さんは「私はポジティブになんでもいい」と答えた、あとに「岬みたいなのはどうですか」と言った。“岬”みたいな座席組みってなんだろうと思ったら、岬に1人、その後ろに3人、その後ろに5人というフォーメーションを組むみたいな座席のことだった。「いいかも、でも遅れてきたお客さんが、岬の先頭になったら、びっくりしちゃうかもね」と笑う、涌田さん。こういう温度の会話を繰り返して、この舞台は、これまで出来上がってきたのだろう。


そのあと、『ひとととととり』は公開稽古を行っていたため、演者の3人ともう3人の見学の人たちが参加して、ストレッチが始まった。私は岬の一番奥に座って、それを見ていた。Aokidさんの体操は足の爪先から頭のてっぺんまでを「動かす」感じのストレッチ。最後に6人全員で手を取り合って、お互いの方向に引っ張り合う。六角形の頂点にそれぞれ人がいて、緊張した六角形を作る感じ。参加者の1人が「気づかないで怪力になる時がある」と言っていた。全員の引っ張る力が加わって、つかむ手に力が入ったのだと思う。「ひとりじゃなくて、人がいると私は怪力になるんです」

2日め🐣
この日は私の友だちも稽古を見にきた。職場が近いらしく、仕事が終わってから行くと言っていた。便宜上、友だちという言葉を使うけれど、特別そこまで仲がいいわけではない、という関係性。『ひとととととり』のフライヤーは紙飛行機が作れるようなデザインになっている。折り目に番号が振ってあってその順番通りに折れば紙飛行機ができるはず、なのだが、できない。友だちに「これできた?」と聞くと折りながら「できてません」と言われた。Aokidさんにヘルプを求めた。「横の子も折ってるし、できてるなら教えてあげればいいのに」「あ、そっちもできてないんだ。折り紙あんまりやったことないの?」と言われていた。わたしたちは特別仲良くないけれど、2人とも折り紙ができなかった。Aokidさんが手伝ってくれた紙飛行機は、遠くまで飛ぶ。


今日は、西井さんが硬い豆を買ってきていて、プラスチック製のボウルに入れて、紐をつけて落ちる仕組みを作っていた。この舞台には「川柳フィーバータイム」と呼ばれる時間があるらしい。私は、詩を人の声で聞くのが苦手だ。どうしてなんだろうと考えたことがあるけれど、自分ができないからだと思う。だからこそ「川柳フィーバータイム」の練習が始まる前は少しそわそわしていた。文章を書いている涌田さんはダンサーでもあるし、歌人でもある。「川柳フィーバータイム」が始まって、涌田さんの句や歌には涌田さんの身体や声が反応している。その反応の影響を西井さんとAokidさんが受けて、水の波紋のようになる。昨日の粗通しをみて思っていたのは、3羽の別々の種の渡り鳥が集まってオリジナルの大陸を創り上げていく感じ。ひとりだったら成立しているものが3人いることで少しずつ揺らいでいく感じ。涌田さんの句の「フォカッチャ」という言葉は2人に影響して、物理的な言葉のキャッチボールのように見える動きになっていく。人の声で詩を聞くのは苦手なんだけど、この舞台のやり取りは全然苦手じゃない、むしろすごく好きだと思った。あとから、なんでなんだろうと考えたけど自分もやりたいからだと思う。

3日め🐥
尾久駅近くのスペースで稽古が行われた。一番近いのは都電の小台駅だった。地平線の遠くまで都電の線路がつながっていて、八百屋さんとかパン屋さんとかが連なっている場所だった。「ここ、いいとこですね」と言ったらAokidさんはニュータウンの生まれらしく「あんまりこういう町に馴染みがないです」と言っていた。涌田さんがたまごサンドの歌に振り付けを付ける日だった。大きな鏡がなくて、涌田さんのダンスを後ろからAokidさんが追いかける。難しそうすぎて、笑ってしまいAokidさんに「あ!笑ってきてる人がいる」と言われた、ごめんなさい! 考えていたのは、音楽に乗る難しさ、動くことの恥ずかしさのことだった。小さな電子ピアノの音を自分のものにして歌う西井さんは、身体表現をするシーンのとき、少し恥ずかしそうだったり困っている表情をしていたりする。慣れていない素振りの西井さんは、パフォーマーとして魅力的だった。でもそれは、何度も繰り返すうちにもしかしたら消えてしまうもので、本番ではきっと見られない姿だった。

🐓
稽古場をあとにして、自分の持っている「目」について考えていた。『ひとととととり』の稽古では人が人の上に乗ったり、紙を破いて折ったり、紐を引っ張ったり結んだり、貝殻を落としたり合わせたりしていた。それらの行為は日常では意味のない動作になりうるものだけど、演劇や劇場という場所の中では意味や物語が立ち現れる。わたしは、3人の動きを見つけられる「目」が欲しい。海が流れる「目」が欲しいし、関節のポキポキ鳴る音が音楽だと感じられる「耳」も欲しい。観客だからすぐには渡り鳥にはなれないかもしれないけれど、3羽の作った舞台の中で何かの動きを見て「これは多分、10000年経ったあとの人間じゃない人間のやり取りなのかも」とかって、もし思えたら、いい。


【執筆者プロフィール】
手塚美楽(てづか・みら)
2000年東京生まれ、うお座、B型。武蔵野美術大学卒業。美学校「現代アートの勝手口」修了。東京藝術大学映像研究科メディア映像専攻在学中。2021年、第一歌集『ロマンチック・ラブ・イデオロギー』を書肆侃侃房より刊行。映像、パフォーマンス、文章表現による作品制作をおこなう。


【公演情報】

Aokid × 西井夕紀子 × 涌田悠 『ひとととととり』
日程:2026年3月13日(金)-3月15日(日)
詳細:https://stspot.jp/schedule/?p=14511

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