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『増える部屋』再演――Qunoが問い続ける「わかりあえなさ」の先  STミーツ#05 Qunoインタビュー

2025年11月17日(月)15:14STスポット


2025年11月20日(木)から23日(日)まで、STスポットでQuno(キューノ)『増える部屋』(英題:The Room Beyond Walls)が上演される。シェアハウスを舞台に、ふたり芝居と映像出演で立ち上がる「増え続ける部屋」のイメージは、8月の東京公演から結末を大幅に改変したという。わかりあえないふたりが衝突の先に何を見出すのか。

稽古見学日には小さなハプニングから稽古場を移すことになったが、その揺れがそのままセッションへと発展し、本作の核である〈わかりあえなさと向き合う〉という姿勢と見事に呼応していた。後日、Quno主宰・総合演出の藤井ちより、制作のsakumi、脚本・演出の山本悠、俳優・アートディレクションの北みれい(イギリス在住)の4名に創作の核心を聞く。本記事は、稽古場レポートとメンバーへのインタビューで構成する。
取材・文:木村友哉(ザジ・ズー/仮設社/ザ・シティイ)


固めたいのに固まらない。その往復が方法に――Quno稽古記
稽古見学のため都内の稽古場へ向かうと、主宰の藤井ちよりさんが出迎えてくれた。Qunoの主宰でありつつ、藤井さんは今年から範宙遊泳にも作家・制作として所属している。私(木村)とは昨年の『心の声など聞こえるか』で演出助手としてご一緒して以来の縁だ。

「実は、稽古場の確保にちょっと行き違いがあって……。青空稽古にでもします?」と藤井さんは笑いながらも判断は速い。すぐに別会場への段取りに切り替え、最低限の機材を抱えて移動する。このタイミングで「今日は稽古をやめる」という選択肢もあったはずだが、それでもやると決められるチームの強さがまず印象に残る。

集合前、藤井さんと団体のことを少し話す。やがて、東京公演に引き続き出演する西奥瑠菜、薮田凜、そして演出補佐/映像オペレーションのたやまあきひろ(アイマχミセル)、山本悠と合流し、稽古場へ。

到着してからは、「増える部屋」の立ち稽古に入る。すぐに段取りを詰めるのではない。シーンを回しながら、その都度、条件を設定してはセッションを繰り返し、そこで起きた化学反応を全員で吟味する。この繰り返しによって、増える部屋そのものがじんわりと立ち上がっていく。固定してはほどき、もう一度結び直す。「固めたいのに固まらない」を弱さではなく強みに変える、Qunoのやり方がそこにあった。

この稽古場にあるのは決めきれない優柔不断ではなく、確かな「優しさ」だ。俳優が迷子にならないよう足場を残しつつ、発見を待つための時間を確保する。それは非効率と言えるかもしれないが、結果として争いきるための体力を蓄えていく。決めないのではない。何度でも決め直せるようにする。それは、本番が始まっても続いていくはずだ。

稽古場で見えたのは「固めたいのに固まらない」を弱さではなく強みに変える時間だった。では、その時間がどのように〈わかりあえなさ〉というテーマとどう結びつくのか。東京公演版からアップデートして結末を更新した理由も含めて、後日、藤井・sakumi・山本・北の4名にあらためて話を聞いた。


Qunoという集まりの続き方と、名前ができるまで
ーまず、Qunoという団体について教えてください。どのような経緯で結成されたのでしょうか?

藤井 私たちは全員、多摩美術大学演劇舞踊デザイン学科の出身です。私とsakumi、北が同期生で、山本は先輩です。最初は私の個人プロジェクトとして「projecttiyo」という名前で制作を始めました。2022年にsakumiが加わり、2024年に北、今年5月頃から山本も参加することになり、団体名を「Quno」に改めて活動することになりました。

山本 団体名を決めるのに約6か月かかりました。「Quno」は「Question and Number」の頭文字を組み合わせたもので、「問いを重ねる」という意味を込めています。

藤井 語感の良さと、これは北さんが言ってくれたんですけど、文字面が顔のように見えて完成されている点も気に入っています。

北 もう決まらなさすぎて……いろんなことを言いました(笑)

藤井 名前を決めるまでに本当にいろいろな案が出ました。ChatGPTにも候補を挙げてもらいましたし、最終的には全員が納得できるまで話し合い、6か月かけて「Quno」に決まりました。

山本 6ヶ月話したので納得です。納得していなければ7ヶ月目に突入してました。

北 ちゃんと全員が納得するまでやり切りました。

ー6か月は長いですね。団体としての在り方についても、かなり丁寧に話し合っているのでしょうか?

山本 はい。最善を話し合い、文字にして形にして、じわじわ自分たちに染み込むか確かめます。創作スタイルとしても演劇だけに限らず続けていこうとしている団体です。

藤井 団体というより、集まりというか……4人の関係性自体が作品で、そのあり方を探り続けている感覚があります。作品づくりも団体づくりも、良い過程を踏めたら一番いいと思ってます。

北 それぞれが大切に思うものを、たとえ理解できなくても大切にしたいと思える人たちなんです。私は今、イギリス在住で、団体に入る話がある中で渡英を決めたので迷惑をかけたと思いますが、それでも一緒にやろうと言ってくれました。

北 実はQunoには入会申請があって。

ーにゅ…入会申請?

北 ちゃんと契約書をつくります。これは怖いことではなく、お互いが健やかでいるための取り決めです。最初の合意を明確にしておくことで、健全な関係を保てると考えています。契約書には団体名が嫌になったら変えられる条項まであります。

ー個人プロジェクトからなぜ団体にしたのでしょうか?

藤井 北さん、山本さんと長く一緒につくってきました。作品をつくるとき真っ先に思い浮かぶ人たちで、団体として続けるなら力を合わせたいと思いました。2人も良いけれど、人を増やして発展したいという思いでした。

『増える部屋』とは何か

『増える部屋』東京公演 撮影:青木哲(AUCUBAstage)
ー今回上演される『増える部屋』は、どのような作品ですか。ホームページも凝ってますね。

山本 今なら言い値で受けますよ。

藤井 営業の場じゃない(笑)

藤井 『増える部屋』はタイトル通り、部屋が増えているように錯覚するほど無数の部屋があるシェアハウスが舞台です。そこに登場するのは住人の探し物をしに来た友人、相川と三島です。友人から頼まれた探し物をしながら、仕事や人生の話をしていきます。

ーなるほど。部屋が増えるから『増える部屋』

藤井 はい。名前はそういう由来です。

山本 マクドナルドで次回作の話をしていた時、ふわっとしたイメージがありました。散らかった部屋が廊下だけでなく部屋同士でもつながり、進んでも外に出られない。「部屋が増えていく」感覚のイメージがあり、それが『増える部屋』の始まりでした。

藤井 作品の中身の話も少しすると、ふたり芝居ですが、もうひとり、北が演じる「うくた」という人物が映像で登場するので、実質的には三人芝居とも言えます。住人それぞれの生き方や考え方に触れながら、ふたりは自分の価値観に気づいていきます。

山本 構造的には、ひとつの部屋がいろんな部屋になっていきます。ふたりしかいない役者が次々いろんな人になることで部屋が変わる構造です。探し物という目的のために部屋を見て回る中で、ふたりの価値観が揺さぶられ、お互いの価値観を理解できず、争いが起きます。わかりあうことができるのか、齟齬の正体は何かを探っていく作品です。

東京→神奈川で「結末」が変わる――キーワードは〈争いきる〉

ー東京公演の時には神奈川公演をすることは決まってたんですか?
藤井 決まってました。というより神奈川公演の方が先に決まっていて。STスポットでやってみたいねていうところから始まって。『増える部屋』というタイトルなこともあるので、いろいろな場所で上演することで、部屋が変わるみたいにリサイズしていって、この作品をQunoのレパートリーにしていけたらいいなと思ってます。

ー8月の東京公演から、神奈川公演では何が変わるのでしょうか?

藤井 東京公演では「わかりあえなさの話」と謳っていましたが、神奈川公演では結末が大きく変わります。

ーなるほど。台本の変遷について教えてください。

山本 東京公演の台本は2稿目でした。最初に1稿目を書きましたが、もっと良くならないかという話になり、書き直しました。神奈川公演にあたっても、新しいものを呼び込み、もう一歩先の光景を見たいと話し合いを重ねました。

山本 1稿目と構造は近いですが、全く別の話でした。レパートリー化のため、もう少しわかりやすくならないかという議論があり、話を大きく変えました。その議論自体が今回の『増える部屋』の根幹になっています。わかりやすさと表現したいことの齟齬。どちらが正しいでもない。この二つの層の対立を東京公演では一つの主軸として描きました。神奈川公演では、その対立に踏み込み、持ち帰ってもらいたいものを、もっと形にしていこうとしています。

藤井 今回は3稿目です。1稿目は「感じ取ってもらう」要素が強かったです。2稿目はよりわかりやすく言及しましたが、結末には余白がありました。3稿目である神奈川公演では物語のテーマや人物の関係性について、結末をより追求したいという意図があります。

山本 今回は「争いきる」ようにします。相手を察するのではなく、なぜ争っているのかをお互いに理解し、いったんぶつかりきって争いきる。そこから何が見えるのかを描きたいと思っています。

固めたいのに固まらない創作――セッション性と創作プロセスについて
ー団体紹介に「集まった人とセッションから場を立ち上げる」とありましたが、稽古でもセッション性を重視しているのでしょうか?

藤井 固めるつもりです。固めたいんです。

山本 固めたいです、いつも。固まらないだけです。全員、早く固めたいのですが、前回よりこうした方が良い点が見えたら向き合います。今回は演出もだいぶ変わると思います。最後まで固めないというつもりではありません。結果的に固めます。

北 藤井は柔らかな雰囲気ですが、自由な意見が出せる環境づくりに狂気的なんですよ。やりたいこと、皆が納得できることを突き詰める姿勢を徹底しています。例えば、稽古場で舞台の実寸を取りたがらないっていうことがあって。実寸は取った方が絶対良いのに自由が損なわれるんじゃないかって拒否したので彼女の意思を尊重し、それでやってみようってなったんですが、さすがに先週くらいから、実寸をとってやるようになりました(笑)

山本 新しい自由な発想が出る可能性を捨てたくない、という意識です。

北 自由な発想を生むことと、実際の劇場やセットのサイズ感は決まってるので役者が混乱しないようにすること。その両立のために反復横跳びするようにつくっています。これがセッション性です。

「自分の人生に疑いを持っていない人」に

『増える部屋』神奈川公演 稽古風景
―― どんな人に観てほしいですか?

藤井 東京公演を観た方でも2回目を見るときっと楽しいです。映画の1と2くらい違うと思います。あと、今回はチケットを6種類用意しました。スタンダードな割引もつくりつつ、足を運びづらい人にも来てもらえるようにしました。この作品は私たちの近しい世代に刺さると思います。その人たちが手を出しやすいよう選択肢を用意しました。

北 いちおしは「感想割」です。

藤井 東京公演は会場のキャパが少なくて感想が上がりづらかったんです。アーカイブのためにも、感想を書いてもらえたら嬉しいと思って「感想割」を設けました。

山本 対象は20代後半から30代で生活の変化がある、またはこれからどうしようと思っている人。自分の人生を疑っていない人にも観てほしい。少し変化を起こせたら。

これからのQunoと野望
ーQunoは今後どうなっていきたいですか。

藤井 共通の目標は「続けていくこと」です。作品をつくり続ける団体として、居場所があることが大切です。大小を問わず、続けていくこと。

山本 制作体制、役者とのコミュニケーション等、演劇はつくるだけで大変です。自分たちのやりたいことを見失わずに続けることは、重く大きい目標です。

藤井 「やりたいことを見失わずに」が本当にその通りで。野外劇や地方での上演もやりたいです。できていないことがたくさんあるので、挑戦したいです。

北 続けることは最低限にして最大限の大事なこと。いろんな場所に行き、巻き込まれる人が増えたら楽しい。つくる側も見る側も、続ける中で増やしていきたいです。

北 Qunoはやりたいことをやらせてくれる団体です。今回は遠隔でフォトスポットの企画をさせてもらって。あ! これ宣伝したいので、触れてくださいね。

ーフォトスポットがあるんですか!やってみたいことに挑戦できるのは良いですね。

sakumi これはprojecttiyoの頃から変わらず、作品だけではなく、空間や観客との関わり方も大事にしてます。会場に来るところから作品の外側も大事にしたいです。作品への入口や観る前の時間も含めて、観客と一緒に作っていきたい。

藤井 そのためにホームページをつくって、コンテンツをつくっています。

北 藤井は観劇体験の作り込みにも狂っています。過去にはポップコーンを食べられる公演もありました。観客の快適さを大切にしているのが良いところです。

藤井 本当にみんなのおかげです。「ポップコーンを出したい」と言ったら、sakumiが「食品衛生責任者の資格取ってくるね」って。みんな、すごいんです。

ー最後に、公演への意気込みをお願いします。

山本 面白くできたらいいなと思っています。ひとりくらい仕事を辞めるくらいの衝撃があっても(笑)

sakumi 神奈川での公演は初めての挑戦です。この公演でQunoがひとつ大きくなれたらと思います。

北 山本の台本は、誰にでも刺さる一言があると思います。自分の状況や過去に照らし、心に残る台詞を持ち帰っていただけるはず。新しい選択肢を得て、これからの選択に活かしてほしいです。観に来てください。

藤井 アップデート版として演出体制も変わり、さらに良くしようと稽古しています。我々が納得し、観客にも届くものを目指しています。「演劇を浴びた」と感じて帰れるように演出し、STスポットに持っていきます。最後まで妥協なく頑張ります。みんなで力を合わせます!

取材日:11月1日(土)、zoomにて



【公演情報】
『増える部屋』 神奈川公演
日程:2025年11月20日(木)-11月23日(日)
総合演出:藤井ちより  脚本・演出:山本悠 出演:西奥瑠菜 薮田凜 北みれい(映像出演)

【団体プロフィール】
主に上演形式の作品をつくる団体。集まった人々とセッションしながら場を⽴ち上げ、劇場に限らず作品を公開する。柔軟で境界線のない創作をひとつの目標として、舞台の外側に及ぶ空間づくりを心がけている。過去作に、2025年『手のひらの町、夜更かしの王様』等。
メンバー:sakumi(制作)、北みれい(俳優)、山本悠(脚本・制作)、藤井ちより(企画・制作)

STミーツとは:STスポットで公演を行う若手アーティストにフォーカスしてお届けするインタビューシリーズです

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