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STミーツ#02 マルレーベル『一等地』加茂慶太郎インタビュー|2023年11月

2023年11月24日(金)10:58インタビュー

STスポットが若手のアーティストにフォーカスしてお届けするインタビューシリーズ「STミーツ」。
第二回目は、福岡市を拠点に活動する「マルレーベル」さんです!
カンパニーとしてのあり方自体も模索しているマルレーベルでは、作品が形成する過程での、参加者の対話を重視しているといいます。今回、上演される『一等地』はどのような作品なのでしょうか?
また本作は福岡、大阪を巡り、横浜がツアー最終地となります。旅をした作品はどのような道筋をたどり、変化していくのか?
マルレーベル代表の加茂慶太郎さんにお話を伺いました。


Q1:今作「一等地」は、身体やモノの存在を発端に演劇をつくり上げるプロジェクト「光景」のシリーズ第二弾となります。今年の2月に創作が開始され、6月には福岡、7月には東京でワークインプログレスも実施されました。戯曲を起点とせず、このように長い時間をかけて参加者と作品をつくりあげていくスタイルになぜ取り組もうと思われたのでしょうか?
マルレーベルでは“生きるをさぐる”を掲げ、人間が生きているということを過不足なく受けとめるべくプロジェクトを展開しています。基本的に活動のたびに参加者(俳優など)を公募します。
出演をお願いするのではなく自発的に参加していただくことで、作品やそれを生む過程を自分ごととして捉えていただけるのではないかと考え、これをおこなっています。演劇作品を生むためには、限りある時間を、多少なりとも割く必要があります。大切にしたいと思っているのは、創作に係る人々がいきいきと、かつ納得しながら作品がつくられてゆくことです。自身の「やりたい」を第一に始めることが、それを可能にすると考えます。
参加者皆が主体性を持ちながら協同して“作る”ことに向かうことが、ゆくゆく作品の強度に繋がるとも思っていて、公募でなくとも叶うことかもしれませんが、今のところ少し極端に、入り口の時点からそれを要請して作品づくりを始めてみています。
「光景」はそのポリシーにダイレクトに呼応するかたちで生まれた、「原作戯曲を持たずに・身体やモノの“存在”を起点にして・(60分程度の)演劇作品をつくる」プロジェクトです。
原作がないからこそ、作品の根幹から具体的なシーンまで全員で検討し作ってゆくことができます。原作はないけれど、私たちの身体はあるのでそこから始めてみます。ひとつひとつ対話をしながら合意をとって進めるため、おのずと時間がかかりますが、この創作の過程の膨大な手続きを経験すること自体にも価値を見出しながら、全員の納得するものを作ってみることにしました。こうして生まれる作品は、私が一人で考えて作るものよりも豊かで面白いものになると信じてもいます。

稽古風景

Q2:稽古やワークインプログレスの過程を経て、作品にどのような変遷がありましたか?その中で具体的にどんなやりとりや試行錯誤があったのでしょうか?
稽古初期は、立ったり歩いたり、単純な動作を繰り返してみたり、そしてそれをお互いに見合っては感想を述べ合うなど、私たちの興味の方向性を知り存在の解像度を高める時間を過ごしていました。やがて、言語や意味を俳優に持ち込もうとして難航します。何を喋ってもしっくりこなかったうえに、言葉が組み合わさると可能性が無限に広がり、選び取る方針を失ってしまったのでした。
同時進行で、プロジェクト名でもある「光景」という単語の意味や事象についても話し合い検討し、「光景とは、そこに存在するものとそれを知覚しているヒトによる共同での存在確認のこと」と定義してみました。それを経て、自分の身体がいまどうなっているかの“実況中継”をおこなってみるとようやくしっくりきて、それ以来そこにあるものやあったものに言及するかたちで、言葉を獲得していきました。ワークインプログレスはこの段階で実施し、その感触をもって「観客とともに舞台上の私たちもリアルタイムで光景を見る」方針を固めました。そのために、舞台上には“物語”の代わりに“存在”と“できごと”を置くことを決め、その方法を模索します。 “物語”の引力はとても強く、俳優はすぐに登場人物になってしまおうとするのでした。
8月下旬、構成作業に入った段階で、「置き去りにされたモノたち」を一つの軸にすることにし、ここから作品化が始まりました。これまでに試してきていたシークエンスや、発展させた取り組みを並べ、11月初旬、福岡公演の直前まで何度も実演して試しては変更や並べ替えを繰り返し、そのうちで「一つでも多くの光景を見ることができそう」な形に着地しました。

福岡公演 (撮影:みやたかい)

Q3:加茂さんが舞台芸術に興味を持ったキッカケや、ご自身で創作を始めた頃の思い出を教えてください。
印象に残っているのは、高校生のとき当時応援していたアイドルが舞台作品に出演するようになり、それを観てカッコいいなと思ったことです。大学入学時に部活を選ぶ際、それまでやってきた水泳と決別するつもりで方向性の全く違う演劇部に入部したことで、無縁だった舞台芸術の扉を開きました。
わりとすぐに、いわゆる作・演に関心が湧き、1回生の秋の学祭公演で初めて発表しました。所属していた演劇部は、学祭で部員一同力を合わせてイントレを組みシートを張り、テント公演を打っていました。周りのサークルが初日から出店を出して賑やかにやっているなか、演劇部は手間をかけすぎるせいで夕方になって初めて本番を始める始末で、仕込み最中にも大雨に見舞われたりした苦労ばかりが思い起こされますが、タフネスな体験として、卒業して約5年経つ今なお細胞に刻まれています。

大阪公演

Q4:今回、初のツアー公演となります。福岡、大阪での反応や印象に残ったエピソードを教えてください。
福岡で昨年上演した「光景」第1作『る?』で熱のこもった感想を多くいただき、「他の土地の方々にはどんな感想をいただくのだろう?」とツアーを画策しました。やるなら早い方がいい、と知名度などは置いておいて今年さっそく実施した次第です。今作『一等地』はさらにコンセプトが深化したこともあってか、福岡公演の時点で反応が様々でした。感想と評価は区別して受けとめますが、正直、大好評も大酷評もいただいたと捉えています。新たな視点と気づきをたくさん授かり、活力となっています。面白いと感じるのは、評価の相関が今のところ自分にはピンとこないことです。たとえば舞台芸術との距離の近い方ほど好評、などということはなく、性差や年齢層、様々な縦方向にも横方向にも反応のグラデーションがあるように感じています。いろいろなフィルターを素通りして、それでも個性ある人間(観客)とリアルタイムな関係性を築きうる作品となっていると感じます。
大阪公演もまた同様に反応様々でしたが、いただく具体的な感想には類似する点も見受けられ、これは少々意外でもあったため、自分のなかの土地柄・土地性の観念や先入観の存在を見つめる契機となりました。
福岡公演の会場はビルの4階でしたが、大阪では商店街に面した建物の1階で、特にアフタートーク中は会場の扉を開けていたために、外の通りの様子が見え、「この土地で演劇をしている」ことを肌で感じ新鮮な体験でした。
ビルの地下、かつ白い壁のSTスポットで見る光景は他都市のそれと異なることは明らかですが、もっと根源的で、マクロかつミクロな光景を見に、横浜へ訪れたいと思います。


【プロフィール】
加茂慶太郎
1996年生まれ。神奈川県川崎市出身、福岡市在住。舞台芸術作家。主に演出、出演で作品に携わり、劇場空間の共同性とそれに居合わせる人々の固有性を対照しながら、時間そのものの鮮烈な体験化を試みている。2023年よりブルーエゴナクメンバー。 近年の出演に、東京デスロック『再生』北九州Ver.、指輪ホテル『Again! Again!』など。


【公演情報】
マルレーベル演劇公演 光景その2
『一等地』(YPAMフリンジ2023参加作品)
2023年12月1日(金)・12月2日(土)
詳細:hhttps://stspot.jp/schedule/?p=10506

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