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『舞台に立つために』ーオフィスマウンテン若手俳優 座談会|2018年11月

2018年11月06日(火)18:53STスポット

12月5日(水)~16日(日)にオフィスマウンテンの新作『能を捨てよ体で生きる』が上演されます。公演に向けて、本作含めオフィスマウンテンに続けて出演している若手俳優、横田僚平さん・矢野昌幸さん・児玉磨利さんによる座談会を行いました。
オフィスマウンテンの新作公演は主宰の山縣太一氏以外も出演者全員が“作・演出・振付”とクレジットをされていますが、全員でつくるとはどういう作業なのか。オフィスマウンテンにおける俳優の仕事とは。山縣太一に出会ってどのように変化し、どのような意識を持って舞台に立っているのか。三名の若手俳優に語っていただきました!



左から矢野昌幸、児玉磨利、横田僚平

オフィスマウンテンとの出会い
矢野:僕と横田さんは第一回目のワークショップを受けました。僕はオフィスマウンテンの作品は観たことなかったんですけど、太一さんのことはチェルフィッチュを観て知っていました。そのときはオーディションというより、ワークショップを受けに行ったつもりだったんですが出演させてもらうことになりました。
児玉:私は2016年のワークショップオーディションです。太一さんのことは以前から知っていましたし、オフィスマウンテンの作品は観に行ってました。『海底で履く靴には紐がない』(以下、海底)もすごい作品だなと思ったんですけど、『ドッグマンノーライフ』(以下、ドッグマン)の初演は、役者が稽古してきたということを体現できてると思ったんです。そういう作品を観た経験があまりなかったので、これは自分のお尻を叩くためにもやってみたいなと思って受けたのがきっかけです。
横田:その「稽古してきた」ってどういうことですか?
児玉:主観ですけど、私がやりたいと思っていたものが舞台にどーんって出てきたと思ったんです。私は太一さんは、柔らかく見えるのに輪郭ははっきりしていてすごく肉肉しくて、なんだかずっと見てしまう人だと思っていて。『ドッグマン』は出演者がみんなそれを体現していて、全員太一さんに見えるときもあるけれど、でもそれぞれはちゃんとそれぞれとして舞台にいたように見えました。あと私はオフィスマウンテンに参加するまで、稽古したことを本番で出すというシンプルなことがあまりうまくできてなくて、自分のダメなところや消化不良なところに向き合わないと舞台に立てないんじゃないかと思って戦々恐々としながらオーディションを受けました。
横田:確かに『ドッグマン』のときは道場に行ってるような感覚がありました。大谷(能生)さんと松村(翔子)さんと太一さんがいて、それ以外は舞台経験が少ない若手だったので。鍛えられましたね。
矢野:太一さんの演出は新発見だらけですね。公演によって大事にすることが変わりますし。
児玉:私はこれまで自身の経験値がなかったこともあって、演出家に言われたことが頭ではわかってても身体でどうやったらいいのかわからない状態がずっと続いていたんです。太一さんはシンプルで普通のことをちゃんと言ってくれる感覚があります。そういうことを言葉にしてくれる演出家は少ないし、私もおざなりにしてた部分もあった。どういう場所で、どういう人の前で、どういうコンディションかで変わるのが舞台で、それを頭では理解できても身体がついていかなかった。太一さんはそこをきちんと繋げてくれますね。ちゃんと段階を踏んでる感じがします。
横田:俳優を信じてくれてるというか、信じようとしてくれますよね。
児玉:怖いけどね。
横田:こんなに信じてくれる演出家がいるんだということはけっこうな衝撃でした。
児玉:本人より見てるもんね、こっちの身体のことを。これはぼやぼやしてられないなと毎回稽古で思います。

自分で自分を演出する、振り付ける
児玉:先日の稽古では、自分に渡されている台詞を発話する前に他の人に動きを指示する。それを実際にやってみてさらに追加で動きの指示や提案をする、というやり方でシーンを作ったんですが、太一さんが「台詞を言う人が一番目立っちゃいけない、でも自分が発話してないときに発話してる身体を持って」と以前言っていて、それはどちらの状態も喋ってることになるということなのかなと思ってるんですけど。基本的に頭をフル回転して身体が喋ってるみたいなことをしながら、人の台詞を聴くみたいな瞬間もあって、その中で効果的なものを探しています。今のところまだツギハギみたいな状態ですけど。今作は今までよりもっと細かく決めて壊しての作業をする必要性を感じています。
横田:太一さんは毎回整えかけたら壊しますね。僕は自分の動きをなかなか決められなくて、『ドッグマン』のときは最終的に太一さんに言われた動きが多く残りました。人から与えられるとこれが自分に必要だと思うし、決定が下されたことに満足してそれに没頭してしまう。『ホールドミーおよしお』(以下、およしお)のときに自分で決めなさいっていう眼差しにやっと自分が気づいて。演出家から決定されたことを遂行するより、自分で決めて自分でやるということが相当難しかった。今回もそうですが。
児玉:でも横田君は絶対ごまかさないからすごいよね。
横田:例えば稽古中、人の動きをトレースするのはけっこうやってますよね。
児玉:それをどのシーンでやるかは決まってる?
横田:いやまだ全然決まってないです。
児玉:今、稽古でやっていることは、構成などはまだ決定ではないですが、自分たちの中でルールはいくつかあります。喋ってる人が一人にならないことや空間の把握に関して。
矢野:お互いの振りはあえて共有してないです。誤解も含めて何やってんだろうというのを勝手にこちらが解釈してます。
児玉:動きはまだ決まってないけど今回の稽古で太一さんが「みんなが脳みその前頭葉とかそれぞれの部分に見えたらいいな」と言っていて、それは意識しています。
矢野:今まで台詞を一人ずつ喋って組み合わせていくスタイルだったけど、今回は全員最初から出るんですよ。
横田:太一さんが、自分の台詞を含め三本以上のラインを身体に同時に走らせてるって言ってたじゃないですか。あれ前からやってました?
児玉:私はやってなかった。
矢野:僕は常にやってます。
児玉:私も自分の台詞は常に走らせてるけど、自分の台詞を言ってるときに他の台詞を身体に走らせてさらに音も聴く、ってことは初めてやってるかもしれません。だけど起こっている出来事を三つ目とすることでショートしちゃう。そもそも今回の台本は、今までと構図がけっこう違うよね?
横田:いる場所とか?目線がってことですか?
児玉:違うものが複数合わさってる感じがして。例えば大谷さんの台詞は音楽ぽいし、ふくよかなんですよね。韻を踏んでる台詞は他にもあるけど大谷さんのには特に多いし。
矢野:横田さんの台詞もいつもと違う感じがしますね。
児玉:太一さんが「今回はわかる人にだけわかったらいいやっていうのをやめたい。わからない人にもわからせにいく」と言ってたんですよ。それはすごく難しいなと。横田君は自分の体内の時間を大事にしながら、でもちゃんとお客さんの時計も見ながらやってる。でも私の場合はひとつ違うと全部崩壊しそうだから、もっとはっきり(身体の)地図を書かないと迷子になるし、お客さんも迷子になるんじゃないかという不安があります。
横田:矢野くんは迷子になりにいってるの?
矢野:僕は迷子ですね、基本。迷子になっちゃう。
一同:(笑)
横田:かっこいい。
児玉:ほんとにロックですよね。でも太一さんはそれぞれそこに向かって戦ってくれと言います。私は全体図として整えちゃう癖があるから、それをやめてくれって。「そうなんだよなー」って思いながらやっています。

太一メソッドを経た身体
矢野:僕はオフィスマウンテンを継続してやってきて、日常生活の身体がちょっとおかしくなってきました。
一同:(笑)
児玉:でもみんなちゃんと年齢重ねてるよね。ちゃんと臭いし、ちゃんと疲れてるし、でもそこがいいなと思います。みんな全然サラサラじゃない、自分含めベトベトというか。ちゃんと老けてて、ちゃんと生きててしんどいし、普通に身体も疲れるし。けっこう影響しますよね、身体に。
横田:筋肉つきましたよね。
児玉:本番終わると身体つき変わってるというのはあるかも。
横田:オフィスマウンテンやるときの身体は「刃牙(*)」っぽくなるよね。
矢野:普通のところについてないけど変なところに筋肉ついてる感じですね。
横田:本番を「やりに行くぞ!」みたいな感じありません?
児玉:そう思わないと行けない感じあるよね。今までももちろん気合い入れて本番に臨んでたけど、オフィスマウンテンを経て意識が変わったかもしれない。前までは後頭部から肩にかけて緊張状態ですごく疲れてたんですけど、オフィスマウンテンを経てからは基本的には身体に軸を置くようにやるから、そういう意味では身体が楽。楽というかちゃんと呼吸ができるようになったのかもしれません。あと日常生活とあまり変わらない状態で本番ができるようになった気がします。局所的な疲れじゃなくって全身疲れるみたいな。
横田:確かに劇の時間が始まったと思わなくなりましたね。最初に台詞を喋るまで待ってる時間があって、「あ、なんか台詞っぽいのが聞こえてきたぞ」「あーここから演劇始まっちゃうんだな」みたいな。でも今はそういう特殊な時間じゃなく日常の時間のまま持ってこれるようになった気がします。
児玉:今まではよいしょって上がってた感じあるんですけど、舞台に「上がる」というより「出る」というイメージですかね。
横田:でも本番が終わると舞台に上がってたんだなというのがよくわかる。上がったことを身体がよく覚えてる。
児玉:稽古では全然できてないけど、太一さんより先にいかないと、と思っています。太一さんにどんどん突っ込んで、お互いがリードし合えるのが理想です。
横田:自主練もやってるんですか?
児玉:でもやっぱり違うよね家でやるのは。
矢野:え、自主練って動いてやりますか?僕は絶対動かないです。
児玉:私は以前演出家に座って覚えるなって言われたことがある。
矢野:逆ですね。僕は太一さんに動きながら台詞を練習するのをやめてって言われたので。
横田:身体のこともその場で全部やるんですか?
児玉:座ってても動いちゃう感じかな。
横田:なるほど、イメージをおさらいしたり強めたり。
児玉:でも自分の中で決定項じゃないことをやっても太一さんの中で決定になっちゃうことがありますよね。あれ怯えるよね。
横田・矢野:うん。
児玉:例えば間違えて先に台詞を言っちゃったとしても、それおもしろいから今の感じでいいよって。台詞に関してはいいですけど。身体のことは稽古場に来るまでに何かしらの骨組みを作っておかないとそれが本番になっちゃいますよね。
横田:確かに確かに、そうそう。
児玉:大谷さんに対しては何か変化はありますか?
横田:前までは例えば大谷さんの動きの中で接触することがあったら、所在なさげになっていき、どうしようってなってましたが、今はもっと大谷さんに仕掛けていきたいという気持ちになってきました。
児玉:大谷さんも人間なんだと思えるようになりました。
横田:そうそう。やっと大谷さんが人間に見えてきました。
児玉:太一さんもそうかも。みんな人間のおじさんだったんだ、みたいな。

今作の注目ポイント
児玉:今回矢野君が書いた台詞がありますが、どうして書くことになったの?自分で書きたいって言ったの?
矢野:稽古が始まる前に太一さんに「矢野君、書こうか」って言われたんです。で、「いいっすよ。時間あるし。」って言ったんですけど、そしたら全然書けなくて(笑)。
児玉:人の脚本の一部に入るって難しいよね。誰の台詞かもどこのページかも決まってないわけだし。
矢野:そう、だからどうしようかなと思いました。
横田:でもちゃんとストーリーを背負っているよね。
矢野:太一さんの言語感覚を意識するために過去作は読み直しました。「ドッグマン」は読んでたらどんどんカオスに感じちゃって。なので一回本を閉じました。
児玉:「およしお」の方がそうかも。
矢野:え、「およしお」の方がわかりやすくないですか?
横田:確かにストーリーはわかりやすいかも。
矢野:まあ今回は矢野が書いた台詞もあるぞと。そこが見所だぞと。
横田:早く大谷さんの音楽も聴きたいですね。
児玉:今までとは違うらしいです。
矢野:クラシックだと言っていました。カルテットらしいです。
児玉:大谷さんの音楽もキーポイントです。早くやりたいですね。劇場に入って音つけてやるとまた作品の立ち上げ方のアイディアが出てくると思うので楽しみです。

 

*刃牙=板垣恵介による格闘漫画バキシリーズの登場人物。週刊少年チャンピオン(秋田書店)に連載された。

取材日:2018年10月16日(火) 取材・構成:田中美希恵

※2018.11.07 初出時より訂正しました。


【公演情報】
オフィスマウンテンvol.5 『能を捨てよ体で生きる』
2018年12月5日(水)-12月16日(日)
詳細:https://stspot.jp/schedule/?p=5032

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