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井上大輔インタビュー〜個と普遍〜


大学在籍時に演劇からダンスに表現の場を移し、卒業後に伊藤キム主宰『輝く未来』で活動、退団後はソロで活動している井上大輔。自らの持つ表現の欲求を観客に伝えていく、その方法を模索する真摯な姿勢がお話を伺っていく中に表れていました。

--稽古お疲れ様です。本日はよろしくお願いします。まず、ダンスを始めた経緯についておきかせ願えますでしょうか。

 

井上:お芝居・俳優をやりたくて桜美林大学に入学したのですが、勉強していくうちに俳優という行為に違和感、台詞を自分の口から出すということに抵抗を感じるようになりました。

それで迷い初めていた時に先輩がダンスの舞台に声をかけてくれたり、木佐貫先生※1に教わったりなどして、段々踊りに魅力を感じて志すようになりました。

 

--大学入学以前から表現するということに興味があったのでしょうか?

 

井上:高校で演劇をやっていて大学でもと思っていたのですが、高校と大学、そしてプロを目指していくのとでは全然違いますし、そのギャップに参っちゃったんだろうし、今更ですが演劇を緩く見ていたなと思います。

 

--そして、ダンスを始めて「輝く未来」※2にも参加されていくわけですね。卒業後もダンスを続けていくことを決めていたのですか?

 

井上:大学では作品制作だけでなくマネジメントなども学ぶことが出来たんです。その4年間を失わないようにしたいということと、表現するっていうことにやっぱり強い欲求がありました。

卒業後、もっと色々と学んだり自分がやりたいことを見つけたりするのに、どこでどういうふうにすればいいのか悩んでいた時に、『輝く未来』のオーディションを見つけてそのまますぐに応募しました。今、これだなと思って。いいときにいいタイミングで。

 

--その「輝く未来」ではどういったことを学ぶことが出来たのでしょうか?

 

井上:キムさんが稽古中、「かっこいいかどうかは自分で決めることだ」と言っていたことがありました。その言葉にやたら納得したのを覚えてます。自分にとって「かっこいい」とはどういうことか探していかなきゃならないと思いました。

 

--その後、カンパニーを退団しソロで活動されていますが、やりたいことがはっきりした・活動方針の転換などがあったのでしょうか?

 

井上:退団後、これもまたタイミングよく『ラボ20』があり応募し作品を発表することが出来ました。そこで最初のソロダンスを作りました。新しくカンパニーやオーディションを受けるという選択肢も考えていましたが、この狭いダンスの世界でそうしていくのはどうしても内輪な感じがしてしまって。だから自分で振付けして作品を発表していきたいと思いました。

もちろんオーディション受けるのも大事なことでしたが、自分がこれから踊りを続けていくにあたって、自分が踊るという行為をどこに、誰に向けて発信したいのかという問題に対峙したいと思ったのと、自分の表現がそういった問題にリンクしていかないと、こういう表現する現場にいる意味が無いと感じています。だから自分で作品作って発表していこうと思ったんです。

 

--そのリンクというのは、作品制作に反映されていると。

 

井上:ダンスをするということはとても僕個人の個人的な問題から始まっていて、それは観客とは一見無関係なことなのですが、僕がダンスをするという個人的な問題はもしかしたらいろんな人と繋がる動機になるかもしれないとも思うんです。

それが共有出来る出来ないに関わらず、とにかく1つの問題提起として自分の踊りを提示できれば、ようやく少しだけ踊りをやる意味や作品を創る必然を感じる事が出来ると思います。

 

--そのリンクというのは、作品制作に反映されていると。

 

井上:それで自分の世界観や方法論を具体的に固めていく修行中です。

 

--常々問い直しつつ。

そこで今回の作品なのですが、稽古を見せて頂いて、身体の胎動から歴史のようなものを感じました。それは個人の身体と個人を越えたもっと大きな存在の両者の性質を備えているようにも見えました。

 

井上:さっきと話は繋がってくるところで、僕はソロでは特に自分ではなく匿名な存在でありたいと常々思っていて、そうすることで観客が「自分かもしれない」というきっかけが出来ればいいなと思っています。

 

--それは、私は"あるポーズ"や音の聞こえ方・振付や動きの関係からも感じました。特に音は前回の「地上波」※3でも大変面白いなと感じた要素です。

 

井上:そのポーズに関してはこの作品のテーマに関わっています。言ってしまうとつまらなくなってしまうので言わないですけど(笑)

音に対する考え方は(作り手)それぞれの答えでいいと思うのですが、どちらにせよセンスを問われるものだと思うんです。僕は音楽は観客へのヒントに繋がるし舞台に華を添えられるものだと思っているから必ず使用します。大事なのはその選曲や音の出し方、ボリューム、そういった要素は僕の考え方にダイレクトに繋がるものです。だからいい音が見つかると嬉しいですが、見つからないと作品作りも苦しいですね。自分では作れないので、音ネタ探したり音響さんと相談しながら音は使っています。

 

--最後に、今回の公演をご覧になる方々へのメッセージなどお願いします。

 

井上:チラシに掲載した作品コメントは正直なところ「恥ずかしいこと書いちゃったな」と思っているのですが、逆に「そういうことだよなぁ」と稽古しながら実感しています。

色々な人が色々なことをやっているこの世界はそれが当たり前です。でもそれは自分が何故生きているのかという問題に繋がっていきます。僕らは普段は色々なものを覆って生活していけますが、覆えないとき-裸になるよりも裸になるような状態は必ずあると思っています。それが人間であると思うし、僕もそのうちの1人で、そんな場所に立たされた瞬間がヒトとしてある意味で最も魅力的だと思います。そんなヒトの営みを舞台で捉えることが出来たらなと思っています。

 

--本日はありがとうございました。



[井上大輔/プロフィール]

1983年生まれ。桜美林大学総合文化学科卒業。演劇に興味があり選んだ大学だったが、そこでコンテンポラリーダンスに出会う。大学より木佐貫邦子にコンテンポラリーダンスを師事し、バレエを三浦太紀に学ぶ。200708年は伊藤キム主宰のダンスカンパニー『輝く未来』で活動し、退団後はソロダンスを2作品発表。自己の表現者としての修練に励む。またピアニスト・指揮者の中川賢一とのコラボレーションWSや、パーカッショニストのはたけやま裕、遊佐未森のLIVEで踊るなど、その活動の幅を拡げている。2009年ラボ2021でラボアワードを受賞。

 


1 舞踊家。桜美林大学総合文化学群演劇専修准教授。

2 振付家・ダンサー伊藤キムが主宰する、若手ダンサー・振付家養成を目的としたカンパニー。

3 20091211日〜13日にSTスポットで開催された公演。


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