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2013.02.05

【対談】「うつる」ことをめぐって 中村達哉【ダンス】×宇田奈緒【写真】
『そこから眺める』という作品の思考のプロセスを、中村達哉が、ゲストとのディスカッションによってひもときます。
対談には、2012年のBankARTスタジオ・アーティスト入居時に出会い、中村の良き対話の相手でもあるアーティストの宇田奈緒さんをお招きしました。
写真をメディアとして活動を行う宇田さんとの対話は、本作のテーマでもある「物を見ること」「人の目に映ること」をめぐって、議論が深まっていきました。


―作品が出来るまで―

--最初に、お2人の出会いのきっかけを教えて頂けますか?

中村:2011年(4月~6月) と2012年(5月~7月)に、BankARTのスタジオ・アーティストとして入居させて頂いていたのですが、2012年の当時、僕は3F、宇田さんは2Fに入居していたんです。

宇田:せっかくスタジオに入居したので、いろんな人の制作を観察してみたいなと思っていました。入居している人たちは、普通は絵を描いたり、何か作ったりしているのですが、「なんかストレッチしてる人がいるな」と(笑)。最初はどう話しかければ良いかわからなかったんですけど、少しずつお話しするようになって。パフォーミング・アーツのアーティストとは、これまで接する機会がほとんどなかったのですが、中村さんとの交流から、考えていることや、やろうとしていることは、ヴィジュアル・アートのアーティストと変わらないんだな、と思いました。

中村:『そこから眺める』の振付は、BankARTの入居時、すでに模索し始めていたんです。宇田さんにも、その断片を見てもらったりしていました。


--本日、通し稽古をご覧になって、いかがでしたか?

宇田:BankARTに居たころは、ピースとして中村さんの動きを見ていたのですが、今日は全部を通して見させて頂いたこともあって。とても好印象を持ちました。パフォーマンスですから、始まりがあって終わりがある、何かストーリーのようなものが見えてきて、時間が移り変わっていくのを感じる。それから中村さんって、動いている時に「どこを見ているんだろう」って思っていたけど、「見ているものがあるんだな」というのが伝わってきて。表情が腑に落ちた、という気がしています。

--中村さんは今回、全編の構成については、何らかのストーリーを意識されたのでしょうか?

中村:最初は無意識の動きから振付を出していました。いろいろと試行錯誤をしていくうちに、ひとつの核となるようなシーンから、動きを派生させていったり、動きから動きを派生させていったっていうのが最初で。そしてある時にぱって全体が見えたという感じですね。

宇田:見ていて新しい発見もあったけど、スタジオで見ていた既に知っている動きが分かったのが面白くて。中村さんの動きって、例えば太極拳のような時間の流れの中で、動きが集結したような気配があるんですよね。そういう流れが見たかった、という動きを見せてくれる。その一方で、今日は動きを繋いだという印象よりも、もっとストーリーというか、感情のようなものを感じました。たとえば、それは中村さんの、過去・現在・未来なのかもしれません。時間が移り変わっていく、っていうのは、舞台の時間というのはもちろんあるけれども、中村さんの過去・現在・未来が見えてくる感じがしました。


―見る・見られるというコミュニケーション―

中村:「うつる」という言葉は、時間の言葉でもあるし、空間の言葉でもあると思っていて。写真に写る、とか。それはちょっと意図しています。踊っている時、壁にうつったり、床にうつったり、自分の跡を残して動きたいんです。「現在」だけじゃなくて、自分が舞台上にたった今残した「抜け殻」に対して、また動くというイメージがある。そうやって分身を作ってく。身体は、見られる身体だから、見る人にビジョンを残していくというか、見る人にこういう身体を一瞬焼き付けるんだけど、その一瞬後には自分は違うことしていたり。すごい密度を作ったかと思えば、ふわっと動いたりとか。見ること・見られることを通じて、観客とそういうコミュニケーションを取りたいと思っているんです。

宇田:今日は「今の瞬間を写真に撮りたい」っていうタイミングが結構ありました。この場所の、ここにきて、この形で、という瞬間が。中村さんの身体という前景と、背景のイメージとの間に、動きの美しさが見えてくる。

中村:自分は舞台上では、見られる人でもあるけど、見る人でもあるんです。空間を多角的に見るというか。壁がすごいでっかく見えるときもあれば、床がそう見えるときもある。自分が見ているものを、みんなにも見てもらうという方法もあるかなと思っていて。自分だけが見られていると思うと苦しくなるから、背景と前景の話でいうと、背景も一緒に見てほしい、という願望があるんだと思います。


―観客が見ているものとは―

中村:写真って、撮った人の個人的、身体的な記憶を感じ取ると同時に、見ている人の記憶を呼び起こすようなものでもありますよね。そこにはある種の構造があると思うんです。自分が人に身体をさらす時にも、人は構造を読み取ろうとするとして、どうやってお客さんの構造の中に入っていけるのかなということに興味があります。例えば知り合いの身近な人が見に来たら、普段会っているあの中村君は、こんなこともやってるんだ、っていう個人の物語を発見するという構造もあるだろうし。

宇田:公演は、時間的にも尺があるから、それを鑑賞しながら考えを思いめぐらせる猶予があるんじゃないかと思うんです。あの動き、自分の暮らしの中にもあったかもしれない、と見ている間にピンとくることがある。

中村:すぐにパッと見てピンと来たりするものは、たとえばコマーシャルとか、芸能人のモノマネとか、誰もが知っているもので、分かりやすい意味でのエンターテイメントだと思うんですよね。でももう少し受けとるのに時間軸が必要なものがある。見ている人の受け取る遠近感というか。そういう遠近感が大事だなあって思いました。

宇田:目に入った瞬間に理解するものって、わかりやすいけど余韻が無い。展覧会に行ったときにも、3日後とかにはっとすることがあると思う。そのぐらいの時間の猶予や遠近感があって、後々までゆっくり考えて咀嚼出来る方が、面白いものなのかなと思います。


―ものを見るってなんだろう―

中村:宇田さんは、「写す人」だなあと思っていて。旅が好きで、移ろうことも好きな人だし。その自由感っていうか、とらわれない感じが良いなと思います。僕も表情が移ろいたいなと。割合縛られてしまいがちな時もあるので、いろいろなことから自由で居たいという気持ちが、宇田さんに近いのかなと思う。制約も作るけど、自由も残したい。

--中村さんはご自身も「うつす人」だと思いますか?

中村:写真家みたいに踊りたいな、と思っています。旅行とかでいろいろなところに行って、気持ちいいなと思っても、ダンサーはなかなか踊れない。でも写真家だったら、たとえ地面にへばりついても、カメラを持っていれば許されるじゃない?STスポットでは、映像作家さんと一緒に、街に出て、「身体が見たものを映像に撮る」というワークショップをしたこともあります。実験的な企画だったけど、どこかで継続的に考えているテーマで。それが今回にも繋がっている。今回はヨコラボplusとして展開し、STでやってきたワークショップや、ヨコラボの集大成ですけれども、最後は自分で形にしないとなって思って。答えが出ているかどうかは分からないですけれども。

宇田:問いかけは何だったんですか?

中村:「ものを見るってなんだろう」ということだと思います。人の目に映るという現象とか、メカニズムについて、ダンスという方法で考えたかった。例えば、これまでだれも訪れたことがなかったような島が、ある日いきなり所有をめぐる争いの焦点になる。僕らの意識にはなかったはずなんだけど、そういうものがあるとき突然見えてくることがある。政治的な問題だけじゃなくて、身近にある普段通っている道にも、そういうものがあって、なぜそれが見えてくるのかということについて考えています。
今回挑戦しようとしたことは、自分が見る主体になったり、客体になったりしながら、見ることを立体的に浮かびあがらせる作業だと思っています。

宇田:私は以前、「the Distance between the Two (その2つの間にあるもの)」というタイトルの展覧会を行いました。その時に考えていたことは、一点だったら距離は無いけれども、2点だから距離が生まれるということ。その距離が近くなったり遠くなったり、空間とか時間によって距離が変わっていく。今日の中村さんの作品を見て、それについても改めて考えていきたいなと思いました。

                       編集:及位友美(voids)


中村達哉:
1998年より現在まで、ダンスカンパニー「イデビアン・クルー」に参加。
パフォーマンスシアター「水と油」の作品や、山下残の作品などに出演。また、ミュージシャンや美術家など、他のアーティストとのコラボレーションを多数行っている。2010年、2011年STスポット主催「ヨコラボ」集団創作コースリーダー/オブザーバーを担当。


公演情報
日時:2013年2月14日(木)20 : 00開演
         15日(金)20 : 00開演

会場:STスポット

チケット料金:
前売一般 ¥2,000/前売学生 ¥1,800/当日 ¥2,300(全席自由)
TPAMパス特典 一般 ¥1,500

ご予約: 
Web予約:http://stspot.jp/ticket/ylplus/ 
TEL:045-325-0411 

詳細:http://stspot.jp/schedule/plus.html