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2012.7.23

清家悠圭"gift"公演に向けてのインタビュー

2012年7月22日

"gift"について


インタビュー・レポート

清家悠圭(振付家・ダンサー)

大平勝弘(STスポット館長)

Noism、BATIKでの活動や、さまざまな振付家の作品への出演を通して、ダンサーとしてのキャリアを積み重ねてきた一方、2005年ごろからは振付家としても多くの作品をつくり始めた清家悠圭。

STスポット開館25周年記念事業「ST25D」に新進の振付家として名前を連ね、ソロ作品という形態では紅一点の登場となります。

イスラエルのインバル・ピント・カンパニーでの研修以降、初めての振付作品となる"gift"について、お話を伺いました。


Q まずは「ST25D」のプログラミングについて、お話頂けますか。

大平:2011年の夏に、アーティストには声をかけ始めました。最初は25周年ということで、25年間のうちにSTに関わって頂いたアーティストの中でも、現在一線で活躍しているアーティストにも声をかけようと考えたのですが、私自身STと関わりだして6年しかたっていなく、彼らに今、STに戻ってきて何をやってもらうのか、という提案を見いだすことが出来なかった。そこで、そういう方向ではなく、STで今やりたいことは、発表のステージそのものを探している若手のアーティストたちと共に、新しい作品を作っていくことなのではないかと。それは昔からやってきたことではありますが。


Q 清家さんへのオファーのきっかけについて教えてください。

大平:STの自主事業「ラボ20#20」(2008年)に、清家さんがエントリーしてきてくれたのですが、存在感や、ダンサーとして出来ることのレンジ(幅)が、圧倒的だった。彼女のようなキャリアであればあえてラボに選出しなくても良いのでは、という見方もあったのですが、ずば抜けた身体性をもつ清家さんには、ぜひ出演して欲しいと思いました。その後しばらくして、彼女はどうしているのかな、と思っていたらイスラエルに行ってインバルピントで研修していると聞き、帰国してから、何か一緒にできないかなと思って、2011年の秋ごろに声をかけました。


Q オファーから、"gift"という作品にいたるまでの経緯はどのようなものだったのでしょうか?

大平:最初から振付作品のクリエーションに入るのではなく、何らかのワンクッションがあったほうが良いのではないかと考えました。そこで2012年の2月に、清家さんにワークショップの講師をSTで行ってもらったり、逆にほかのアーティストが講師のワークショップに、清家さんに参加してもらったり、という実験をしてもらったんです。


Q 清家さんが行ったワークショップとはどのようなものだったのですか?

清家:写真集を題材にしました。10人弱の参加者に、そのシーンから動きを考える、というワークショップを行ったんです。私自身もこのワークショップで、今回"gift"という作品に発展した、自分の中の「記憶」をたどりながら、それを開放するようなイメージで動きを引き出していました。


Q それでは今回の作品"gift"について、お話を伺っていきたいと思います。

  タイトルの"gift"には、どのような意味が込められていますか?

清家:イスラエルでの生活の中で、とても個人的なことですが、3ヶ月にもわたって、自分にとって大きな体験がありました。ちょうどその時期に、日本では東日本大震災が起こりました。その頃、自分の体験を日記のように書いていたのですが、紙に書ききれないことを、身体を動かしてダンスにしていました。今回の作品の振付の断片は、その頃に作り始めたものです。

当時考えていたことは、自分は生かされているということ、そして自分だけでなく今を生きている人たちはみな、命を授かり、何かを与えられて生きているのではないかということでした。"gift"というタイトルは、そういったイメージから自然に出てきたタイトルです。


Q "gift"では、ポーランドのヴォイチェフ・モラフスキーさんが映像・音響などで参加します。モラフスキーさんとのコラボレーションはどのようなものになりそうですか?

清家:最初、STスポットからモラフスキーさんの音源のCDを渡され、同時期にこんなアーティストが日本に来日するよというお話がありました。音源を聴いてみて、音のアーティストが参加することで、自分の「内」にあった表現が、より「外」に向かって開放されていくのではないかと思ったので、ぜひ一緒にやりたいとお伝えしました。

先週からモラフスキーさんが来日しています。5月ごろから、これまでもメールやスカイプなどでやり取りを重ね、イメージの断片を言葉で伝えたり、振付の動画を送ったりしてきましたが、現在はクリエーションの最終段階で、振付、音楽、映像を全体的に詰めているところです。

モラフスキーさんの映像は、ダンスをしている私の身体と、インタラクティブに反応して動くようなシステムを使ったものになりそうです。


Q "gift"は、清家さんにとってどんな作品になりそうですか?

清家:イスラエルでの生活を経て、自分の中で考え方が変わったところがあります。今までは、自分にとってダンスがすべて、と考えていたところがあったんです。でも今は、ダンスは自分にとっての幸せの中の一つではあるけれども、すべてではない、と考えるようになりました。ダンスは自分自身にとってもちろん必要なものなのですが、誰かに見せるためにやっているのではなく、呼吸をしたりご飯を食べたりするのと同じように、自分の中にあるもの、という感覚です。

でもその一方で、今までよりも誰かに見せる機会を積極的に作っていきたい、と思うようにもなりました。矛盾してもいますが(笑)。

今は自分自身が内にこもっていなくて、外に開いている感覚があります。"gift"という作品の出発点は、とても個人的な「記憶」ではありますが、誰もが与えられた命を生きていて、今を生きている。この作品を通して、何かを感じてもらえるものになればと思います。


清家さん、大平さん、ありがとうございました。


インタビュアー:及位友美(VOIDS / Coordinator)



公演情報はこちら→ http://stspot.jp/schedule/st25dgift.html