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2012.10.9

『ヘッドホンと耳の間の距離』 音響設計福田拓人さんインタビュー


山下残新作公演『ヘッドホンと耳の間の距離』は、"音"や"音楽"を起点として、作品を作っています。出演者インタビューにつづく第二弾として音響設計の福田拓人さんにお話を伺ってみました。

--福田さんは普段どんな音楽を作られているんですか?

 

福田:基本的にはコンピューターを使って曲を作っています。電子音響音楽というジャンルがあって、やっている人たちだけが知っているようなマイナーなジャンルなんですが(笑)。クラシックの流れの延長線上にあるコンテンポラリー音楽の中の1つのジャンルという感じなのですが、普通音楽というとリズムとかメロディとかハーモニーとかがあるのですが、電子音響音楽っていうのはそれがない場合が多いです。例えば絵画のピカソって、彼は画家だけど彼の使っている手法っていうのは、それまでにあったものとは全然違っていて、新しい手法を作ってるんですよね。コンテンポラリー音楽も同じようもので、新しい手法を突き詰めていった結果、一般的に音楽と言われるものからは離れたものになっています。

 

--今回の公演では、様々な音を録音してそこから音楽を構築していますが、いつも、音を録音することからはじめるんですか?

 

福田:なんらかの音素材を録ってきて作ることが多いですね。コンテンポラリー音楽っていうのが、独自の音を開発したいっていうオタッキーな人たちの集まりなので、素材から自分で作るぜ!という人が多いんですよね。私もその一派なんでしょうね(笑)

 

--残さんはどうゆうところが魅力的な方ですか?

 

福田:残さんは独特の自分の世界をお持ちですよね。それで自問自答をすごくする人なんだろうなって思います。今回の作品は、いわゆるダンスのメソッドからは外れたことをやっていると思うんですよ。そういうことをやろうってどこから出てくるかというと、きっと残さんがすごく自問自答して出てくるものだと思うんです。

振付家の方って基本的に持っている技術を前提に作品作りに取りかかることが多いんじゃないかって思うんですよね。でも残さんの場合は、その既に持っている技術を使うんじゃなくて、新しく技術を作ることから始めているところが魅力的ですよね。

 

--福田さん的今回の作品のみどころはどういうところですか?

 

福田:僕は音響設計なので、もちろん音の話になるのですが、残さんから音で圧倒するようなものを作りたいと言われていました。『ヘッドホンと耳の間の距離』というタイトルが何を意味するのか考えると、僕の解釈では耳というのがその人の心の中で、それに対して周りの音というのが環境にあたるもので、耳という心の象徴があって、ヘッドホンが周りの環境みたいなものの象徴なのかなと感じていて・・・。この劇場に設置したスピーカーってヘッドホンみたいなもので、ヘッドホンをちょっと開いて、周りから入り込んでくるノイズ、そういうものの象徴だって僕は考えています。こういうシチュエーションにおいて、音がどういう風に入り込んでくるか考えると、360度+上下から音は入ってくるので、お客さん全体をプラネタリウムのように取り囲む音響システムがコンセプトに合っているのかなと思いました。それで今回21.2chの巨大音響システムになりました。音はもちろん、視覚的にも圧倒される音響システムになっていると思います。



福田拓人(Takuto FUKUDA)

作曲家、サウンドアーティスト。音楽生成モデルそのものの創作に興味を持つ。旧来の音楽の持つ階層構造と構 成要素の変容性に着目し、コンピューター音楽の作曲に反映させてきた。2008 年国立音楽大学音楽文化デザイ ン学科、2011 年ハーグ王立音楽院ソノロジー学科修士課程修了。コンピュータ音楽およびプログラミングを莱 孝之、今井慎太郎、コート・リッピ、ヨハン・ファン・クライに師事。作曲を菱沼尚子、夏田昌和に師事。 CCMC2011( 日本 ) にて FUTURA 賞、Musica Nova2010( チェコ ) にて Honorary Mention 受賞、同 2008 にてファイナリストの他、作品は欧州、米国、アジア諸国で演奏されてきた。また NRW INTERNATIONAL DANCE FESTIVAL 2008 with Pina Bausch( ドイツ )、文化庁芸術祭 ( 日本 ) 等にて舞台作品の音楽を担当。 国際コンピュータ音楽学会、及び先端芸術音楽創作学会会員。