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2012.09.11

おかっぱ企画より新作公演『commons』によせて
おかっぱ企画は末森英実子と若林里枝が<お互いの創作過程を共有する場>を持って活動しています。今回のクレジットを見てみると、振付・演出などが作品ごとに分けられてはいません。それも"共有"によるものでしょうか。
では、その"共有"というものはいったい何であるのか、お二人からコメントを頂きました。

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○おかっぱ企画としての活動。

若林:正直、おかっぱ企画の活動について何をやりたいのかとか、どういう意図でやっているのかと、聞かれると、とても困ります(笑)

おかっぱ企画の活動を通して、何かこういうのを目指しているとかは、特にないからです。ただあるのは、若林と末森が、これからどういう人生を歩んでいくのか分からないけれど、その途中にいる訳で、その途中経過(常に途中経過だけど) それをどう共有していくのかというか。来年、再来年あたり、お互い結婚してダンスなんかもう辞めてるかもしれない(笑)
そんな事も一つの可能性として視野に入れて活動している感じがあります。

だから、ダンスの可能性というか、どうやったら観てくれた人に、何か響くような作品が創れるか真剣に考えていない訳じゃないけれど、その事と同時に、今私たちがやっている活動が、自分たちの人生にとってどうなのかも真剣に考えています。
そういう意味での通過点にいるお互いに対して、近寄り過ぎず、また遠過ぎず、並行して歩く事が、おかっぱ企画の目的と言ってしまえば目的のような気がします。
それは、すごく自分たちのエゴのようにも思えるけど、どう相手を受け止めるか、自分がどうやったら相手はやりやすくなるのか、互いが依存するでもなく、どっちかが受けてで、どっちかだけが発信する一方向でもない地点を探し続けて行きたいなと思っています。

それは、まだどういうスタイルでお客さんに提示していくかとかは、考えられていないけれど、後に何かいい方法が見つかって提示できたら、それはお客さんにも私たちのそういう姿から、何か受け取ってもらえるものがあるんじゃないかとも思います。
自分たちの実感にそった提示の仕方が今後みつかってくれたら良いなと思っています。


末森:団体の活動、と言うと、やはり公演の数が1つの基準だと思われます。近年の私たちは1年〜2年に1回と非常に少なく、細々とした団体のようですが、"おかっぱ企画の活動"は、作品を創作し発表する、というような、単純に公演の数に表れるものだけではないところにもあると思っています。
それは、ただのおしゃべりだったり、一緒に何かを見たり、何かをしたり、そのような(人と人が何かを共有する)中の1つに、作品づくりもあるような気がします。
お互いの人生において、人と(または自分以外の何かと)どのように関わっていくか、どうやって受け入れていくか、を、実践し実感できるところ。

だから、若林さんの言うように、もし作品づくりを今後しなくなったとしても(本番前にこんなこと言ってなんですが 苦笑)、お互いが関わっていることが"おかっぱ企画の活動"かもしれません。その意味では、今のところ、精力的に活動している団体と言えますね(笑)



○稽古について

2人は創作過程を共有する場の1つとして合同稽古を行っていますが、これは単なる稽古場見学やお互いのメソッドを共有するようなものとは異なるようです。


若林:稽古は、基本的に末森組と若林組で別々に稽古をしています。それとは別に、一週間に一回くらいの頻度で、合同稽古日を設けて、進行状況の把握やお互い相手のやっていることを試してみたり、ただ稽古に付き合ったりをしています。

前回のvol.4『センバツ』の時は、私はソロで、末森さんは私とのデュオ作品だったので、同じ稽古場で、それこそ仕事場での上司の悪口を言いあったりしながら、最後の30分だけ、ちょっと何かやってみて、その日の稽古は終了という感じでした。
それは、一見何もしていないように見えますが、私たちの実感としては、そうしたくだらないおしゃべりが、前回の作品に導かれて行ったなという感じがあります。
今回は、それぞれダンサーに声をかけて、別々の稽古場で稽古しているので、前のようなくだらないおしゃべりは出来なくて(笑)、そうした時に、お互いの作品をどう共有すればいいのか全く分からなくて、苦肉の策で合同稽古日を設けました。
でも、それ自体も私の方の稽古が追いつかなくて、別々にやらせてもらったりしています。

ですが、つい最近末森さんに私たちの稽古場を見学してもらったことがあって、私の作品では今回実感ってことをものすごく大事にしているのですが、その時に、末森さんが、「稽古の最初の頃と変わったね」って言ってくれたんですね。見た目としては、何か振付を踊るとかではないから、とても見えづらいものなんですが...
その目には見づらいものを一緒に共有してくれた瞬間は、本当に嬉しかったです。


末森:前回(vol.4『センバツ』)に比べて、今回は一緒に過ごす時間がとても少ないので、ちょっと、結構、心細いです(苦笑)
それでも(それだからなのか?)、稽古をともにするときや、若林チームの稽古にお邪魔するときは、いつも以上にアンテナが張っている気がします。

若林チームの稽古で、いつもやっている"観察"という、自分の身体の状態を客観的に自己観察する、という稽古に立ち会って、それ自体とても興味深いのです。後日、自分の稽古をしていたとき、あるシーンで、ふと「あ、これは観察に影響されているな」と気づいたことがありました。
意識的に取り入れていたわけではないので、びっくりしました。
それも真似ではなく、要素として、そのシーンに影響していたので、気づかなかったのですね。
無意識(?)レベルで、そのような作業をしていたことが、"共有"という形態に変わってからの、おかっぱ企画らしい出来事のような気がしました。



○今回の作品について

今回、稽古を拝見してどちらも"ルールとその外れ方"についての印象を受けました。それを舞台上に乗せるときに"共有"という点からどのように上演するかというところは非常に気になるところでした。


若林:今回は、お互いに人とどう関わっていくのかというか、人と人なのか、それとも空間、場所、自然とか、関係って言ったら色々な関係があるかと思うんですけど、そういう色々なものとの関係の中で、普段私たちが個人的に感じている事に対して、思いっきり向き合ったという感じが、この前のスタッフ見せで、お互いの作品をみた時に感じました。
でもそれは、すでに、私と末森さんがおかっぱ企画という場で、お互いに対して実践しているというか、考えているような事が、作品にそのまま反映されているような感じがします。

そういうお互いのテーマが、別々な形で作品として浮かび上がってきた時に、何か『commons』のタイトルの意味がやっと繋がってくるじゃないかと思っています(笑)


末森:自分の作品もそうですが、若林さんの作品も、"人"が関わっていて、そこに興味が向かったものだと思います。
「同じものを見ているけれど、見ている方向が違う」と、前に若林さんが言っていましたが、そのような部分も感じます。
私たちは普段からそのようなところがあります。

だから、作品自体は、今の自分とひたすら向き合った、個人的なものではありますが、その個人的なものを、お互いに見せ合って、お互いを受け入れて、また自分と向き合って、という時間をともにしてきた2人、という前提で観ていただけたらオムニバスとは違った見え方になるような気がしないでもないような気がします。
そうなれたらいいな、と思います。



[プロフィール]
おかっぱ企画
末森英実子(すえもりえみこ)
1985年、神奈川県生まれ。祖父母に育てられ、ときどき父親と出かける。
桜美林大学文学部総合文化学科へ入学。坂口芳貞、高瀬久男、鐘下辰男、平田オリザ氏らに演劇を学ぶ。大学では主に役者を経験する。学内オーディション公演、学生劇団、アウトリーチ、ダンス、路上パフォーマンスなどに参加。卒業目前に、遅れてきた反抗期を迎え、駅前等でゲリラパフォーマンスを敢行。
以降、パフォーマンス活動と並行して、田上パルやマームとジプシーなどの芝居に出演するが、突然、台詞が言えなくなる。その日をきっかけに、身体について考え始める。
現在は「おかっぱ企画」として作品を発表するとともに、その瞬間の自身と向き合いながら、最近、ちょっぴり社会のことも意識しつつ、日々を過ごしている。
2011年山下残『庭みたいなもの』出演


若林里枝(わかばやしりえ)
1986年、埼玉県生まれ。3才よりクラシックバレエを始める。
桜美林大学総合文化学群へ入学後、コンテンポラリーダンスと出会う。以後、大学在学中に、木佐貫邦子、岡田利規などの作品に出演。
あえて、ダンスや演劇にとらわれない活動をする。
卒業後は、「whenever festival 新人振付家育成プログラム 」振付:捩子ぴじん 「おかっぱ企画 制服とサングラス 3」構成:末森英実子「私的解剖実験 5~関わりの捏造~」振付:手塚夏子などの作品に出演。 また、その傍らで、自身でもソロ作品の創作を行う。
最近では、STスポット企画、手塚夏子がリーダーの『ヨコラボ'11 民俗芸能調査クラブ』に参加し、自らの問いを'実験'として反映させていくやり方にも挑戦している。