ニュース

2011.10.31

i.e.project 05 『エウリディーチェの嘆き』 稽古場リポート

公演まであと1週間を切りましたが、稽古も順調に進行しております。

今回はダンサーの稽古の中でポイントになった点などを、京極朋彦さん(制作協力)がまとめた「稽古場リポート」から紹介し、振付を担当されている神村恵さんのコメントも添えてお届けいたします。


1.身体の観察

稽古序盤では、身体の状態を精密に認識し、内部・外部から与えられたときの反応も丁寧に見ていかれたように思われます。

具体的には脱力状態・静止状態の観察で〈片腕の力を抜いて、もう片方で支える・掴む〉〈二人組になり身体を造形する側/される側、動作を指示する側/される側になり実行する〉などをされていました。

 

 

.こういった身体への細かい意識は、音との関わりの中でも重要なのでしょうか?

 

A.

はい。時間をどう使うか、音をどう意識するかということは、最近では一番後回しにしてきたことだったので、今回はそれにがっちり取り組むつもりで始めました。

特に「聞く」というのはどういうことなのかを探る作業に時間をかけています。

音楽を聴いているとき、耳はリズムやメロディーを捉えているけど、身体全体というか皮膚全体では、同時にその音楽のノリや雰囲気を聞いている。音楽によって喚起されるイメージを身体で聞いている、とも言えるかもしれない。

だから、音にのって身体を動かすときも、鳴った音を聞いてから動くのではなくて、全体として既に鳴っている音楽全体のノリとか音が出てくる前の源泉みたいなところを捉えて動く。ある意味、予期的に聞く、現れるであろう音を身体で予言しながら同時に聞く、という風にするとうまく音楽と共存できる気がする。

というか、聞くというとき人間はすでにそういうことをしているように思う。

あと、実際に耳で聞こえてなくても聴覚的なイメージを呼び起こすことも可能なはずで、例えばビニール袋やはしごをじっと見つめて音のイメージを探ってみたり、そういうのも試しています。

いずれにせよ、身体のどの部分が聞くということを担っているか、耳で聞いているとき身体の他の部分は何をしているのかを感じ取っていくところから、動きを生み出すようにしたいです。

 

 

 

2.音の観察と身体

次に、音に対して様々なアプローチをとり、感覚や記憶、身体の繋がりを探っているように思われます。

このときの稽古の中で〈BGMにしている音楽以外の音に注目して動く〉〈グループで考えた振付を"目を瞑ったまま"踊る〉というものがあり、特に後者とても興味深く、ここはリポートの文章を引用させて頂きます。

 

「目を瞑ったまま無音で踊るとき、他者に対してかなりアンテナを張り巡らせ、情報を受信すると同時に、自分からも発信していく必要があるように感じた。

音に合わせる、人に合わせるといった、集団で踊る時の、いわゆるダンスの約束事とされていることに、視覚や聴覚といった、ごく個人的な感覚を駆使して、「待ち合わせ」ていくような作業。

それゆえ各自がバラバラではあるが、ふと息があったり、ずれが気持ちよかったりする瞬間があり、完全にバラバラではない。

音をどの様に聞き、どう動きに変換するかだけでなく、他者の音への認識と自分の認識の違いに注視することで、ただタイミングや形を「合わせる」ダンスではなく、感覚に「待ち合わせる」ようなダンスが生まれてくるかもしれない」(京極朋彦)

 

 

3.グループにおける音楽と身体

上記1,2の内容から発展し、より他者への意識が増し時間経過も加わっていきました。

他者の体で演奏させる、つまり他者の体を通して自分の奏でようとする音楽を聴くことや、体を固めたり忘れたりすることで、自分の身体だけでなく周囲との関係も変化させていくことなどです

言い換えると、連続性を強く意識したものであり、その連続性は時間に関するものと空間に関するものがあるように感じられました。

こちらもリポートから引用します。

 

「〈イメージ→動き→制約→変化→時間の形成〉という流れの中で常にイメージを途切れさせることなく持続すること、イメージの鮮度を保つこと、イメージの変化を恐れずしかし、その都度、明確にすることが大事。

実際この流れを意識的に、スムーズ且つ明確に行なうにはトレーニングが要ると思われます。たぶんかなり地味なワークを長期的にやる必要がある気がしますが、実は私達は既に、普段の生活、しぐさ、会話といった、生きることの中で、このことを意識せずに、やってのけている気もします。

リハーサルでやっていることは、地味なことかもしれませんが、実はこういった小さな意識の変換が、大きな効果を生み出す要因になるのかもしれません。

リハーサルを見ていると、今を生きる体に効くイメージと、その持続方法、そこから生まれる動きが、ダンスになっていく、その片鱗を見るような気もします。」(京極朋彦)

 

 

Q.初のKAATでの公演なりますが、アンサンブル・ジェネシスや他のスタッフも含めて劇場の、そして作品の空間をどのように創りだしていこうと考えていらっしゃるのでしょうか?

 

A

全体を通して、音楽や美術、ダンスなど個々の要素が際立って見えるというより、時間的にも空間的にも全部がつながって織り合わされていくような舞台になると思います。

振付の上でも、抽象的なイメージと具体的な人物が交互に浮かび上がるような流れを作っていきたいと思っています。



■ 神村恵(Megumi Kamimura)振付家・ダンサー

2004年よりソロ作品を発表し始め、国内外の様々な場所で公演を行う。2006年より神村恵カンパニーとしても活動を開始。20107月、トヨタコレオグラフィーアワード2010にファイナリストとして出場。201011月、シアターグリーンにてカンパニー作品「飛び地」上演。生々しい身体性と空間を浮き彫りにする独自の手法が注目を集める。ダンスの境界線を探るべく、他ジャンルのアーティストとの共同作業も積極的に行っている。
http://www.kamimuramegumi.info/index.html


ダンサー:臼井彩子 遠藤綾野 剣持真理子 白井愛咲 宝栄美希 宮原万智

公演情報はこちらから