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2014.11.11

感覚デザイン研究クラブ ガイダンスレポート
感覚デザイン研究クラブとは
STスポットでは年間を通じて、ワークショップや創作リサーチを中心に創作活動を行い、アーティストとしての自覚と方法論の確立を目指すプログラムを行っています。
感覚デザイン研究クラブは科学的視野から「感覚」や「記憶」をリサーチし、自身の表現にフィードバックすることを目的としたプログラムです。 中村達哉(振付家・ダンサー)を顧問として、STスポットでの実験やフィールドワークを経て、報告会にて発表を行います。


講師プロフィール:中村達哉
1998 年より現在まで、ダンスカンパニー「イデビアン・クルー」に参加。他に、パフォーマンスシアター「水と油」の作品や山下残の作品などに出演。また、ミュージシャンのPVなどにも出演。ソロ活動として、美術家や他のジャンルのアーティストとのコラボレーションを多数行っているほか、学校や劇場を中心にしてワークショップ活動も行う。2010年、2011年STスポット主催「ヨコラボ」集団創作コースリーダー / オブザーバーを担当。2013年自作のソロ作品「そこから眺める」を STスポットにて発表。



ガイダンス 10月30日@STスポット

テーマ
「"心"という装置を,仕掛けとして作る」
-私たちが日常で経験する"生き生きとした感覚"とは、どのようなメカニズムを持って生まれるのだろうか。
-自己や意識が現象としてあらわれる場とは、どんな場だろうか。
-自分の動きは何をもとに作られていくのだろうか。
以上のことについて、"振付"という考え方(=他者の動きや感覚を自己に写し取り、再現する行為)を方法的に採用し、「人がそれをリアルだと感じる意識」や、自己や他者のうちに一回限りしか起こらない感覚をどう再現・共有するか、様々なアプローチを試みる。


キーワード
1.クオリア
 
クオリアは感触や心の質感。

たとえば物体の表面を触った時の"つるつる"や"ざらざら"といった触感や、夕陽を見たときに呼び起こされる情感など。 
クオリアがない状態(=感覚遮断)とは、どのような状態だろうか?
クオリアはどのようにして生まれるのか。

2.感覚
感覚は脳からのフィードバックである。

例:痛みの感覚が生じるとき。
指先の皮膚の内部にある痛覚受容器が刺激を受ける→痛覚受容器の近くにある皮膚が大きくひずんだとき、痛覚受容器は神経インパルスを発射する→神経インパルスは腕から脊髄、脳幹を通って上昇し、大脳皮質に至る→大脳皮質の触覚野で、神経インパルスの頻度と周波数が分析され、これだけの頻度でこれだけの周波数の発火はこれだけの大きさのこの箇所の痛みだ、ということが決められる。
大脳で作り出された機能的な痛みが、指先の皮膚の表面(=角質層という死んだ皮膚でしかない部分)にフィードバックされ、実際にそこに痛みがあるかのように感じさせている。

感覚は現象のようなもので、物質的に存在しているものではない。
感覚はイリュージョンのようなものである。
感覚を味わうにはどのようなやり方があるか。

3.動き
動きが生じるときのメカニズムについて。
動こうとする意識よりも先に、実際に脳内の指令信号(運動準備電位)が送られている。自分が"動こう"とするより先に、じつは「動きそのもの」は行われていて、意志や決断は後から行われる。これは通常考えられているように、自分が意志決定をした結果動きが起こるのではなく、自分が意志する前に既に運動が行われているということ。
→動こうとする意志は、既に始まっている動きを後から受動的に追認しているにすぎず、錯覚のようなものである、という。(=受動意識仮説。)

動きをどうやって生み出すか。

○以上、『錯覚する脳』、『脳はなぜ「心」を作ったのかー「私」の謎を解く受動意識仮説』(共に前野隆司著 ちくま文庫)を参照。感覚デザイン研究クラブでは、物質的に捉えきれない感覚を巡って、以下の実践をしていく。

・科学的な事実を学ぶ(前掲の、前野隆司氏の著作を主に読み込んでいく)。
・興味にしたがって自由にテーマを立て、実験やフィールドワークによりリサーチしていく。
・報告、という形でアウトプットをする。


リサーチ1
ブラインドワーク:身体感覚を変容させ、動きを考えていく。
-エピソード記憶を作る
-ボディマップを作る

リサーチ2
分解・再構成:どういう仕組みで作品が作られていくかを共有する。自分の作品、あるいは他者の作品を別のかたちで再現してみる。
-テーマを立てる
-表現ツールを選択する
-他者の経験をなぞる
-内部感覚を知る、感覚を記述する
-錯覚という現象を引き起こす


中村達哉より:これまでダンスを作る現場を通して、他者と共有できることは何か?という問いかけをしてきました。科学という一見ダンスとは接点がないと思っていた分野でも、実は同じような問いかけを積み重ね、仮説と実証を繰り返しているのだと気が付き、「クラブ」へと展開しました。一人の人間にひとつあるとされている"心"という現象を分解した上で、私たちはどんな現実を共有しうるのか、できるとしたらそれはどんな方法を通して可能になるのか、を問いかけていきます。
思考の道筋を一緒に辿り、話し合いを重ねながらじっくりと考えを進め、それぞれの表現領域に大胆に応用できるようにしていきたいと思います。


参考文献
『錯覚する脳』前野隆司著 ちくま文庫
『脳はなぜ「心」を作ったのかー私の謎を解く受動意識仮説 』 前野隆司著 ちくま文庫
『脳のなかの身体地図』 サンドラ・ブレイクスリー、マシュー・ブレイクスリー著  インターシフト

ガイダンス概要 http://stspot.jp/news/post-151.html