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『婆美肉魂』ワークインプログレス 太田充胤 × 遠藤七海トーク【前半】

2026年7月08日(水)14:13STスポット

7月11日(土)より開幕する遠藤七海『婆美肉魂(ばびにくこん)』の本公演に先駆けて、5月8日(金)『婆美肉魂』ワークインプログレス公演を実施しました。
上演後にはゲストに医師・批評家の太田充胤氏を迎えて、作品シリーズの変遷を振り返りながら、「ダンスはどのように生まれるのか」「弔うとは何か」といった創作の根幹にせまる対話を繰り広げました。
当日のトークの様子を前後半に分けてお届けします!
(後半の記事はこちらから)


ー「婆美肉」とは
5/8トーク当日の様子

遠藤: ではここからは太田充胤さんをお迎えしたトークに移りたいのですが、その前に簡単にこの作品のシリーズについて説明しつつ始めていきたいと思います。
まず「婆美肉」という言葉は、聞き馴染みがないと思うんですけれども、これはVTuberやVRの世界で、主に男性が若い美少女のアバターになりきって振る舞うことを「バーチャル美少女受肉」、略して「バ美肉」というネット用語があって、それをもじった造語です。
「婆美肉」シリーズはまず2025年2月、STスポットの「ラボ20」という企画で『婆美肉考(ばびにくこう)』という作品を上演したことから始まりました。きっかけは、私がずっと同居していた祖母が認知症になったことです。何度も同じ話を繰り返すんですね。こちらがそらで言えるようになるくらい、昔のことばかりを繰り返し話すんですよ。
そういう祖母と付き合うのが、正直ちょっと鬱陶しかったんです。同じ家にいるのにどんどん避けるようになって、でもこのまま関わり方がわからないまま祖母が亡くなったらどうしよう、でもやっぱり極力関わりたくない、という気持ちがあって。
そこで、作品創作のリサーチ対象としてなら関われるかも、と思いついて。ちょうど「ラボ20」の募集があったタイミングだったので、ソロ作品を作ることにしました。
VRやバーチャルという要素が出てきたのは、劇場という場所について考えたことがきっかけです。私はこれまで古民家やギャラリーのような、サイトスペシフィックで即興要素の多い場所で作品を発表してきて、劇場での経験がなかったので、「劇場ってどういう場所だろう」と。
そこで思ったのは、劇場とは現実には存在しない場所やものを観客が想像して見る場所、つまりバーチャル的な機能を持つ場所なのではないか、ということです。VRでいう「ここではない場所にいる」感覚、ARでいう「ないものが現実に立ち現れる」感覚に近い。その発想から、祖母になりきること。アバターのように祖母に入り込もうとすることで祖母を理解できないか、という考えにつながり、「婆美肉」というコンセプトにたどり着きました。

太田: 本当に喋ることがいろいろあって何から話そうかという感じですけど、まずは上演お疲れ様でした。

遠藤: ありがとうございました。

太田: 今日、すごく踊っていましたね。予想外にがっつりダンスするんだなというのが正直な印象で。というのも、過去作の『婆美肉考』と『婆美肉塊(ばびにくかい)』を動画で見ていて、一作目の『婆美肉考』はダンスに振った作品ですが、この間、神戸のDANCE BOXで上演した『婆美肉塊』はかなり演劇寄りの作品だったので、今日はもしかしたら全然踊らないパターンもあるかなと。道具立てを見せるタイプのワークインプログレス上演になるのかなとか、いろいろ考えながら見ていたんです。
でも実際にはかなり身一つで踊っていて。コンセプトやストーリー、意味に回収されるレベルではなく、ダンスそのものを身体で見せるという回だったんだという風に受け取りました。少しずつ作り上げていて、まだ進んでいる最中だとは思うんですが、作品を重ねるごとにやっていることが少しずつ変わってきていますよね。まずそのあたりから聞かせてもらえたらと思います。
『婆美肉魂』©️前澤秀登

ー反復から生まれるダンス

(『婆美肉考』の動画を見ながら)

太田: 『婆美肉考』では、遠藤さんがおばあちゃんの服を着て、VRのものではないけどゴーグルをかぶって、最初は無音でおばあちゃんの身振りからシーンが始まって。その身振りを3周、4周と繰り返していく。
この反復という形式が、認知症のおばあちゃんという話とキレイにかみ合っているのがよくできているなと思って。認知症の人が同じ話を何度も繰り返すという、あの気が遠くなるような体験を、形式そのものとしてダンスのフィールドに持ってくると、むしろポジティブな要素になるんですよね。反復を重ねるうちにいろんな要素が増幅されたり、そぎ落とされたり、ずれたりしながらダンスになっていく。それをおばあちゃんの身振りからスタートさせているというのが、作品としてすごく上手いなと。途中でおばあちゃんが四つ打ちで踊っているような場面も、それ自体ダンスとして面白くて。
『婆美肉塊』は、また話のレベルが変わって。遠藤さんのおばあちゃんを核に置きながら、今度はより一般化された「弔い」の話になっていくんですよね。盆踊りの炭坑節をやってみたり、精霊馬を作ってみたり。そして、実はこうした「弔い」には元々反復的な性質がある。盆踊りの振付自体が反復だし、円を描いて周るということもそうだし、さらに一年ごとの反復という、長い時間軸で見た反復の話にもなっていく。一作目のモチーフをそういうスケールに広げながら、弔いそのものと向き合った作品、という理解をしました。

遠藤: 私、アートマネージャーとして仕事しているのもあって、わかりやすくまとめて提示することは得意なんです。昨日、スタッフさんが見に来てくれて、「もうちょっとお客さんに気を使わなくていいんじゃない?」と言ってくれて。私もなんか、上演だしキレイに整えて見せようとしてたんですよね。「今回のワークインプログレスの目的って何なの?」って聞かれた時に、答えられなくて。
「ラボ20#24」のキュレーターである康本雅子さんにも総評に「頭で考えることが先行してしまって、身体を信じきれていない」と書いてもらったんですけど。これは常々いろんな人からも言われていて、自分でもずっと課題だと思っていて。
だから今日は、あまり前提情報を見せない状態で身体を差し出した時に何が見えるのか、そのことを観客の皆さんに聞ける機会にしたかったんです。作品としてこちらが意図するものと接続するつもりでやってるけど、もしかしたら全然違うものとも接続できるかもしれない、そういう可能性を持っておきたいと思って。

太田: じゃあ、今日はあまり説明しすぎず踊るようにしてたんですね。昨日のリハーサルでは全く別のことをやってたんですか?

遠藤: 全然ではないけど、音源が違ったりとか。結構変えましたね。昨日のリハーサルまでは、『婆美肉塊』の時に使用した音源を使ったり、ちゃんと着替えておばあちゃんの格好になっていたりとかしてたんですけど。そのおばあちゃんの格好で見立てる、ということも一度全部なしにして、その可能性も自由に考え直せる機会にしようと。今日はこの私服でやりました。

太田: どうでした?

遠藤: 実際に見てもらうことで身体も変わりますね。まさかこんなに息切れするとは思ってなかったんですけど(笑)

太田: 今日は即興だったんですか?

遠藤: 最初のシーンは目的を決めて、目的に向かって動いてたけど、回路は決めないようにしていました。最初は結構困っていたんですけど、身体がうまく動かないなと思いながらも続けてました。回路が分かりきってても面白くない気もするので、困った時にどうしようと思いながら続けるけど、頭であまり考えないで身体に任せようとはしていました。

太田: 炭坑節から派生した動きですよね。ゴールが決まってたということですかね。

遠藤: そうですね。炭坑節のルートを通るという。炭坑節って結構型として決まっている動きで、その型というものを自分の中からどうやって立ち上げられるんだろうなということを試していて。やっていることとしては、最小限に自分をフラットにするとか、心臓がバクバクしているその微かな揺れをキャッチして増幅して反復することでズラして、また違うルートに変わって他が動いてみたいな。そのズレをうまく乗せたいと思っていました。

太田: そういうことをやっていましたね。その結果として、『婆美肉塊』では炭坑節からスタートしてたどり着いたところと、今回ゼロから踊り始めてたどり着いたところが同じ、というのが今日のゴールということですか。

遠藤: そうですね、そこで終わりたくて。

太田: なるほど。……今日の踊り始めのあれは何ですか、むにゃむにゃしているおばあちゃん? 違う?

遠藤: むにゃむにゃしているおばあちゃん?

太田: 高齢者ってよく寝てるじゃないですか。人間って終末期にはだんだん覚醒している時間が短くなって、赤ちゃんと一緒で眠ってばかりの生活に戻っていって、眠るように死んでいく。今日の冒頭の、呼吸、胸郭のむにゃむにゃっていうところから立ち上がって、船を漕ぐような感じが、晩年のおばあちゃんがそうだったのかなと思いながら見ていました。それは意図したことではない?

遠藤: 意図したことではないですけど、それをこうして聞けるのが嬉しいです。

太田: 身一つでやるとそういうことが起こるということですね。

遠藤: なるほど。

太田: 話を戻すと、反復からダンスを作っていくというのが、遠藤さんのやり方の一つだと思っていて。『婆美肉考』がそうだったし、今日の1シーン目もそうで、やっぱりそこが一番面白いところのはずなんですよ。ダンスが生まれる瞬間みたいな感じだから。
さっき「困ってた」って話が出ましたけど、まさにそこで。ダンスじゃないところからスタートして、そこにダンスが生まれてくるというのが、個人的な好みも込みですけど、私がダンスを見ていて一番面白いところなんです。「今、ダンスが出てきた」という瞬間。もちろん振付の中でもそれはできるし、まさにダンスが生まれたかのような振付を作ってやっている人たちも面白いと思うんだけど、あれって結構大変なことで。だから舞台の上で本当にダンスが生まれたら、それが一番いい。
特定のモチーフ、特定のインプットから始まって、ゴールがあって、その間をつなぐというゲームのルールはわりとうまくできている気がするし、スタートとゴール、あるいは途中のルールがコンセプトによって決まってくるタイプの舞台って、うまくいく感じがする。

遠藤: うまくいくといいな。

太田: 1シーン目は私の中ではそういうシーンでした。

遠藤: ありがとうございます。

太田: 順番に行きましょうか。2つ目のシーンは?
5/8ワークインプログレス上演

遠藤: 2つ目のシーンは「牛ゾンビの踊り」って自分でタイトルをつけていて。

太田: 牛ゾンビ、これは牛?

遠藤: 牛です。私、自分で振付を作れないんですよ。見知った動きになっちゃって、つまんなくなっちゃうんです。なんで右手を上げるかという理由がどうしても欲しいんですね。そうなった時にトレースという手法をよく使うんです。
『婆美肉塊』の時に、ナスを登場させていて。お盆の精霊馬の。

太田: なるほど、その牛か。

遠藤: その牛です。足をつけてお盆の時に庭先に置く、精霊馬ってやつですね。
本当はナスを動かしたかったんですよ、実際の牛みたいに。CGとか使おうかなとか、それこそメディアアート系の人たちにリサーチして、「どうやったらナスをバーチャル上で動かせますか」って話をたくさん聞いていたんですけど。ナスが動いても、やっぱりナスには身体構造がないから、牛っぽくは動かせないみたいな結論にたどり着いて。じゃあ牛そのものをトレースしてしまおうと思って。ジャージー牛の放牧の様子をYouTubeで見て、それを全部トレースするところから作りました。

太田: いいじゃないですか。ジャージー牛。

遠藤: ジャージー牛なんですけど、四つん這いになるような一目瞭然なトレースは絶対つまんないからやめようと思って。YouTubeを流して「耳が動いたから、肘を動かしてみよう。」と観察して動かしてみる、そういうことだけをやっていたんです。
YouTubeなんで定点じゃなくて、カットが変わるんですよ。カットが変わって牛の大群が迫ってくる映像になったら「大群が迫ってきたら、身体で対応するか」とか。
DANCE BOXの国内ダンス留学に参加していて、『婆美肉塊』を作っている最中に、参加者間で通しを見せ合う日があって。メンターでついていた中間アヤカさんにも見てもらったんですが、「何かと掛け合わせた方がいいんじゃない?」と言ってもらって。何がいいかと考えて、この動きがゾンビみたいだなと。ゾンビって魂がないけど動き続けている、みたいな。今回やりたいこととも近いかもと思って。それが「牛ゾンビの踊り」の成り立ちでした。

太田: ゴム手袋はどの段階で入ったんですか?

遠藤: 手袋は、どの段階で入ったか忘れちゃったんですが。『婆美肉塊』の時はぬか床を掘り起こしている時の手袋という意味合いだったんですけど、ゾンビって手がだらりとなるイメージじゃないですか。でも、それをするには全然理由がなかったんですよ。ゾンビ感を演出するためだけのこの手の動きはちょっと許せないぞと思った時に、ぬか床を混ぜることはやりたかったから、ゴム手袋をつけることになり。しかもちょっとブカブカの手袋をするということで、それが動くということが、ゾンビ化させるということに自分の中の回路になっています。

太田: なるほどなるほど。牛であることは正直全く分からなかったんですが。動きのレベルで、ぶら下げている手袋にドライブされているのは感じました。それは死者という意味のレベルと、手袋という道具立てのレベルが噛み合ってダンスが生成されているということだろうなと思って見ていたんですけど。
大きくテーマに則して言うと、「バ美肉」ってきっとそういうことなんじゃないかなって思うんですよ。バーチャル美少女に受肉して、ガールズヒップホップとかを踊ってみます、みたいなことで、その道具立てによってダンスが発生しているという状態。自分が何を身につけているか、今どのような意味をまとっているかが、自分がどのように踊るかということのルールになるということですね。きっと遠藤さんはそのルールを増やしていくことでダンスを作っていくタイプの人なんじゃないかと思うんですけど。
だから、ぬか床のシーンはおばあちゃんがあのゴム手袋をしてぬか床を漬けていたというエピソードと動きから始まったダンスなんだろうと思ったら、実はおばあちゃんはナスのぬか漬けを作っていないんですね。

遠藤: はい。おばあちゃんはぬか漬け作ってなかったです。

太田: それは結構、びっくりだったんですけど。

遠藤: みんなに言われます(笑)

太田: それはそうですよ。おばあちゃんを弔うということだったから。でもこれは面白い話で、ダンスの方に引っ張られて、元ネタのはずのおばあちゃんが変容していくという。きっとそれって、アバターと中の人の関係に近いんですよ。アバターが最初にあって、中の人がアバターとどうあるかを規定して演技するわけだけど、だんだん中の人の方が染み出てくるということがあるわけですよね。中の人が染み出た結果、アバターの方が変わって見えたり、あるいは衣装が更新されて印象の違うキャラクターになっていったり。そのバーチャル的なものと生身の相互作用みたいなことが起きているというエピソードなんだなと思いました。

後半記事はこちら

構成:萩谷早枝子(STスポット)


【プロフィール】
太田充胤(おおた みつたね)
1989年生まれ。医師・批評家。内分泌・糖尿病専門医。旅行する批評誌『LOCUST/ロカスト』編集部。自身のダンス経験をもとに、デジタルネイティブ世代の身体論に取り組む。2025年3月に、ダンス・メディアアート・サブカルチャーを貫通する新しい身体論『踊るのは新しい体』(フィルムアート社)を刊行。

遠藤七海(えんどう ななみ)
東京都大田区生まれ。立教大学映像身体学科卒業。日常の振り付けられた身体を起点にパフォーマンスを展開。並行して、舞台芸術の企画制作にも携わる。STスポット「ラボ20#24」にて『婆美肉考』を発表。ラボ・アワード受賞。国内ダンス留学@神戸11期Solo Dance Artist。
最新情報:Instagram @farw7sea


【公演情報】
遠藤七海 『婆美肉魂』

[横浜公演](「ラボ20#24」ラボ・アワード受賞者公演)
7月11日(土)・7月12日(日)
STスポット
https://stspot.jp/schedule/?p=14621
[東京公演]
7月25日(土)・7月26日(日)
本妙院(東京都大田区)
詳細:https://babiniku-con-ikegami.peatix.com/

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