2024年11月26日(火)15:00インタビュー
アジアで最も影響力のある舞台芸術プラットフォームのひとつ「横浜国際舞台芸術ミーティング(YPAM)」が間もなく開幕し、会期中は横浜・みなとみらいエリアでは数多くの舞台作品の上演が行われます。
会期中にSTスポットで上演する団体より、
現代人が抱える闇を日常会話の中にあぶりだしていく作風に定評がある「東京タンバリン」高井浩子さん
リサーチとドキュメンタリー的手法に基づいたパフォーマンスをおこなうユニット、「y/n」橋本清さん
にそれぞれの作品や創作について伺いました。ご観劇の前後にぜひご一読ください!
またYPAM2024で注目している他演目についてもお聞きしました。あわせてお出かけください!
*団体名をクリックすると各インタビューへジャンプします。
元々はTPAMに参加希望して準備していた作品でした。YPAMに変わり会場が横浜になり期間も変わったので参加できませんでした。ですので今回はリベンジです。
『絆されて』は、ヒッチコック監督の映画『ハリーの災難』から着想を得て戯曲を書きました。
『ハリーの災難』は、あるのどかな村で「死体」が発見されるのですが、緊張感はなく、穏やかで、その穏やかさが奇妙で可笑しい物語です。
人の死という緊張感のあるシチュエーションでこそ、人はおかしな行動をとってしまうのかもしれない。普遍的な内容で楽しんでいただけるのではと思いました。
Q2:初演から2年が経ち、今回の再演でブラッシュアップした点や新たに手を加えた点があれば教えてください。また変わらず大切にしている部分があればそれもお聞かせください。
基本、初演時と変わらずにやります。
初演時は一度本番直前に出演者がコロナに罹ってしまって中止になりました。同じ年に上演することができたので、稽古をたくさんやれました。あらゆることを試すことができました。今回はそれを思い出すのではなく、新たな気持ちで取り組むことが課題です。
大切にしていることは「違和感のない空間つくり」ですかね。
最近は特に劇場以外の会場でやることも多いのですが、リアルな会話劇ですので、違和感のないよう役者やスタッフとつくっています。
Q3:YPAM2024のプログラムで気になる演目を教えてください。
●『品川猿の告白 Confessions of a Shinagawa Monkey』日英国際共同制作 KAAT × Vanishing Point(KAAT神奈川芸術劇場)
村上春樹さんの小説を日本とイギリスの役者、人形使いの方とどんな舞台になるのか興味深いです。
●『Paper』Washi+(THE HALL YOKOHAMA)
土佐和紙の伝統をシンガポールの演出家がどう表現しているのか興味深いです。
●『海まで100年』スヌーヌー(象の鼻テラス)
スヌーヌーの主宰で作家、演出家の笠木泉さんは多くの舞台に立っている役者さんでもある。以前、うちの劇団にも出演して頂き、大好きな役者さんです。どんな舞台を作っているのかとても気になります。
●『集団行動』リチャード・シーガル/バレエ・オブ・ディファレンス + 日本体育大学(KAAT神奈川芸術劇場)
日本体育大学の学生70名という人数でリチャードシーガルさんの振り付け、どんなパフォーマンスになるか気になります
高井浩子
劇作家・演出家。東京生まれ。1995(平成7)年に東京タンバリンを旗揚げし、作家、演出家としての活動を開始。人間の「心の闇」「負の部分」を日常会話の中にさらりと描き出す作風が評価されています。2007年~2008年、映画監督・本広克行氏の舞台初演出作品「Fabrica」3部作の脚本を担当。他に小川糸原作「食堂かたつむり」の映画脚本やドラマなどの脚本も執筆。2019年10月わのわ企画「お点前ちょうだいいたします」初の海外パリ公演。
【公演情報】
東京タンバリン 『絆されて』
2024年11月29日(金)-12月3日(火)
詳細:https://stspot.jp/schedule/?p=12509
今回、「自伝的パフォーマンス」と銘打っていますが、どこまで「ドキュメンタリー」的な手つきを採用するかは未定です。今までy/nで取り組んできた「レクチャーパフォーマンス」の形式と比べると、むしろ物語性の高い上演になるかもしれません。また、そもそもが「上演作品」である以上、ドキュメンタリー的な要素の多い少ないに限らず、「フィクション」の様相をまとうことにはなるかと思います。これを魅力と呼んでいいのかはやや懐疑的なのですが、たとえばドキュメンタリー的な要素が多い場合には、それがどう「フィクション」に絡めとられてしまうのかといったことなどに興味があります。その過程は非常に危うく、そして、同時に刺激的なものになるでしょう。
Q2:y/nの活動はTPAM2020フリンジに参加された『カミングアウトレッスン』から始まりました。この4年間でレクチャーパフォーマンスというスタイルや表現との向き合い方にどんな変化がありましたか?
ユニットの旗揚げ作品でもある『カミングアウトレッスン』では俳優として「レクチャー」の身体性を獲得するのに苦労しました。自分は「講師」ではなく「俳優」だからです。とはいえ「講師役」として舞台で「語り」を演じようとしてしまうとその「レクチャー」は台無しになってしまいます。それは視界に映る「観客」を「生徒役」として扱うことになるからです。しかし、いくら「本当」らしく立ち振る舞おうと、これらが「パフォーマンス」である以上、私も観客も互いに「生身」の存在ではいられません。抽象的な言い方になってはしまいますが、俳優や観客がそれぞれ「生」を十全に発揮できるように、作品毎に「パフォーマンス」という虚構の位相を「レクチャー」を通して見極めていく作業をしているのかもしれません。変化ということに応答すると、その作り手としてのまなざしが四年間の活動を通して鋭くなったり、また反対に慣れのため鈍くなったりしていっているのかなと思います。
Q3:YPAM2024のプログラムで気になる演目を教えてください。
●『「聴者を演じるということ」序論』牧原依里 / 聾の鳥プロダクション(高架下スタジオSite-Aギャラリー)
まず、メインビジュアルのお二人の立ち姿に何よりも惹かれて公演概要を閲覧しました。〈観客は今まで「個人」とされてきた「聴者」がカテゴリーで括られることを目撃する。〉とありますが、そのとき、もうひとつのカテゴリーである「観客」(と、「演者」と「観客」の関係)がどのように変容されるのか。とても気になります。
y/n
2019年結成。演出家・俳優の橋本清と批評家・ドラマトゥルクの山﨑健太によるユニット。リサーチとドキュメンタリー的手法に基づいたパフォーマンスを発表している。ユニット名はyes/noクエスチョンに由来し、二項対立や矛盾などを意味する。主な作品に男性同性愛者のカミングアウトを扱った『カミングアウトレッスン』(2020)、日本とブラジルの移民に取材した『フロム高円寺、愛知、ブラジル』(2023)など。
(プロフィール写真撮影:山端拓哉)
【公演情報】
y/n 『ゲイ・モノローグ』
2024年12月13日(金)-12月16日(月)
詳細:https://stspot.jp/schedule/?p=12539