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地上で人が起こす波動 ー『地上波 第四波』牛川紀政インタビュー|2018年8月

2018年8月22日(水)17:26STスポット

8/24から開幕する『地上波 第四波』。2009年から始まり、間隔をあけつつも開催を続け、今回で4回目となります。
今回の出演者は、劇団ナカゴーの川﨑麻里子。川﨑作品の脚本・演出は映画監督でTVディレクター、俳優の太田信吾。大橋可也&ダンサーズや関かおりPUNCTUMUNに出演している後藤ゆう。COLONCHの東島未知。BATIKの政岡由衣子の4組。それぞれが新作のソロパフォーマンスを発表します。
当公演の企画者は音響家の牛川紀政さん。
牛川さんは「テクニカルスタッフが本来企画を立てるのは控えた方がいいと思っていた」と言います。
それでも『地上波』を立ち上げた経緯とはなんだったのでしょうか。


―まず牛川さん自身のことをお伺いします。牛川さんはどうして音響やDJを始めたのでしょうか。
音響を始めたのは約30年前の20歳の頃で、そのころはイベントと演劇が半々でした。演劇で状況説明のための効果音や劇中音楽を選曲するようなやり方におもしろさを感じられなくなり、20代で辞めてしまったんですね。
音響の仕事と並行してDTM(デスクトップミュージック)の制作もやっていて、ライブをやったりしていました。そこで知り合った人の影響でDJを始めたのが30歳の頃ですね。DJのフロアで踊っているお客さんの反応を見ながら、次はどういう曲をかけ展開させていくか考えて場を共有する。そういうことに関心を持ちました。

―そこから舞台音響に戻り、コンテンポラリーダンスの世界に足を踏み入れるきっかけがあったのでしょうか。
クラブであるダンサーに声をかけられ、コンペに出すダンス作品の音響を依頼されたことです。その作品に関わったことで、徐々にコンテンポラリーダンスの音響としてかかわる作品が増えていきました。コンテンポラリーダンスに携わるようになって、それまでの状況説明だけでない、作品にアプローチできる音響に再び興味を持ちはじめて、音響家として再出発しました。

「地上波第二波」ダンシーズ

―音響家が企画を立ち上げるというのは珍しい事例だと思います。どうして「地上波」を立ち上げたのでしょうか。
簡潔に言うと『ラボ20』(*1)が終わったからです。『ラボ20』が次々に優秀なコンテンポラリーダンサーを輩出していった経緯があったので。立ち上げた頃からコンテンポラリーダンスに斜陽を感じていて、『ラボ20』もなくなっていくし。なんでだろう、どうしようって考えてたら、もう自分でやっちゃえばいいのかと思い『地上波』を立ち上げました。
飛んでる電波のことではなくて、地面の上で人がウェーブを作って波動を起こす、それがダンスと呼ばれてもいいし、身体表現と呼ばれてもいいと思っています。身体の動きが観客に向けてなにか説得力を持つようなものになるようにと“地上波”を再解釈しこの企画名にしました。
立ち上げの2009年頃がちょうど地デジ化でテレビの買い替えを促されていた頃だったのもあり、テレビへの対抗という意味合いもあります。テレビ画面の中の人は身体が軽く感じられる。軽いというか、重みを感じない。本来の“番組”はライブだ! っていう。今回のチラシのコメントにも載せてますが、能・狂言や寄席でも番組と言われるように、本来はこっちの意味だぞ、ということです。

「地上波第二波」中津留絢香×長谷川風立子×西田沙耶香

―『地上波』は毎回多彩なダンサーが出演していらっしゃいますね。
毎回、音響で関わったことのある作品に出演していた若手・中堅のダンサーにお声かけしています。
それと、昨年から演劇の作家、俳優にも出演していただいてます。ここ数年ダンス作品の中で声を発していたり台詞を言っていたり、演劇的な要素が入っていたりする作品が多くなっているように感じています。そういうボーダーレスなことを悪いとは思わないですが、むしろ演劇の人たちの身体の使い方がよりダンサブルでボーダーレスなんじゃないかと思う時があるんですね。演劇だと言葉を扱う分、きちんと思考して身体を使っているなと思います。ダンサーももちろん思考して身体を使っているとは思うのですが、わりと感覚的に捉えている人が多いような印象です。言葉で身体を捉える必要もあるのではないか? そういう考えから、いわゆるダンサーでない、演劇の方にもお声かけをしています。

「地上波第三波」モメラス


―『地上波』の今後の展望やビジョンを教えてください。
開催規模を大きくしようとは思っていないですね。コンテンポラリーダンス界は以前の盛り上がりはなく、成熟期に入っているように思いますので、その火は消さずに次へ次へと続けていけばいいんだと思います。細々とでも3年5年と間があいても、まずは続けていくことかなと思っています。

注釈:(*1)『ラボ20』・・・STスポットが開催していた若手振付家が約20分の作品を発表するダンスコンペティション。回ごとに様々なアーティストがキュレーターを務めた。

撮影:松本和幸
取材・構成:萩谷早枝子


牛川 紀政(音響家・「地上波」企画):
1966年 品川区生まれ。バンドやDTM をやりながら劇団兼イベント企画会社で演劇・イベントの音響始める。クラブDJ をしながら楽器店4 年間勤務を挟み、ダンサー野和田恵里花と出会い再びフリーで舞台音響に。
以降、舞踏に嫉妬しながら、トリシャ・ブラウンにガツンときて、Nomade~s、開座、C.I.co、ほうほう堂、金魚、枇杷系、チェルフィッチュ、LUDENS、M-laboratory、まことクラヴ、大橋可也& ダンサーズ、BABY-Q、輝く未来、神村恵カンパニー、ミクニヤナイハラプロジェクト、室伏鴻+ 黒田育世、近藤良平+ 黒田育世、KENTARO!!、珍しいキノコ舞踊団、サンプル、デュ社、モメラス、オフィスマウンテン…etc
また、ラボ20 やラボセレクション、トヨタコレオグラフィーアワード、吾妻橋ダンスクロッシング、横浜ダンスコレクション…etc
2017 年~、立教大学現代心理学部映像身体学科兼任講師。

【公演情報】
「地上波 第四波」
2018年8月24日(金)~8月26日(日)
https://stspot.jp/schedule/?p=4574

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