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『ワカクマズシクムメイナルモノノスベテ』川口智子氏より


声はカラダ、ことばは肉体。

おそらくは踊りを踊ることも、他人のことばと出会うこと。



踊りたいという人と作業をすると、「ことばを喋るのが恥ずかしい」と言われてしまうことがあるのです。で、私はというと、これに真っ向から対決したいと思う。


なにも、カラダを動かす勢いを声帯にのせて「うわぁっ」とか音を出してほしいとか、説明じみて「あたし」「今」「ココ」「そら」とかポツリポツリとせりふを言ってほしいわけではありません。踊る人の舞台上のカラダは、今その場にある絶対的な身体の強さをもつときに、同時に他者のためのカラダとして存在し得るということ、そしてその前景にはことばがあるのではないかと思うのです。


誤解を恐れずに言えば、俳優だって舞台上でことばを喋るのは恥ずかしい(と思う)。他人のことばをそこで起こっていることのように喋るのって、本当にきわめて宗教的な行為ですね。


やっぱり踊りだってそうです。人のために踊るとき、自分のカラダが他者に共有される、そうして初めて舞台上の身体が強靭であることができる。



そこで、今回の『ワカクマズシクムメイナルモノノスベテ』を思い返します。


会場は新港村のホール。全体の倉庫の大きさを体感したあとのあのエリア。天井が大きく抜けてしまっているのに対して、パフォーマンスの空間は少し曖昧な気持ち悪さがありました。ちょうどよすぎるところがなんだか不気味に残ってしまう感じでしょうか。この上演の少し前にズニ・イコサヘドロンの作品をみたばかりでしたが、こちらは能楽師、昆劇俳優そして現代舞踊家によるコラボレーション作品で、空間の不安定さと、それに対するパフォーマンスのシャープな切り口とが混ざってボーダーラインがふやけるという不思議な感覚があり、ダニーさんの強固な演出家の視線に脱帽したのであります。


ところが、今回のパフォーマンスのほうでは、その空間のあやふやさをあまり感じさせず、奇妙に絡めとられてしまう、という感じがありました。(正確には同じ会場で、舞台の方向が異なっていますが、比較の範囲内だと思います。)おそらく、曖昧な空間に対する警戒心があまりない、というのがその理由ではないかと。これは、3本目の作品『ワカクマズシクムメイナルモノノスベテ』で、もっともわかりやすく提示されるのですが、遠江愛が冒頭で空間に引く紫色のビニールテープ。曖昧な空間にもっと不明なものが登場してきたぞ、という感じ。普通だと、もっとカッコ付いたり都合よくなったりするところだと思うのだけれども、ほとんど効果がないという。だけれども、その後のダンスの展開をみるに、あの線を引くという場面がなければただの踊りをみたなという感じで終わっていたのだとも思います。それで、じゃあ、ただのダンスじゃないとしたらなんなのだ、ということです。これは、『百年の身体2』で3秒間くらい、会場全体が「無重力状態」を味わったのではないかということでそれは、井上大輔の熱のこもった、なのにヘラヘラしてみせる(これまた境界線があやふやの一人二役なんですが)カラダが、ただの移体となった瞬間に、会場の不安定さをとおりこして、宇宙の広がりを生み出したように思われました。彼の身体はとても百年も残っていそうにない感じがするのですが、この「即席宇宙」の3秒間には長い時間が感じられました。何ももたないものが、もっとも豊かであり得るというメッセージならば、あたらずも遠からず、という気がしなくもない。


 

ここでもう一度、冒頭の話に戻ります。


『ワカクマズシクムメイナルモノノスベテ』ということですが、もちろん、パフォーマンスのタイトルに意味があるべきか、ということは議論の余地があるとは思いますが、「ワカイ」こと「マズシイ」こと「ムメイ」なことがどれほど今回の製作者たちにとって切迫した事柄であるかは私には了解しかねるところです。ほんとうはもっと切実なことがあるんじゃないですか。それが何なのか、同世代の表現者としては本当に一番気になるのはそこです。なんで、彼らは踊るのか。ちょっと若くて、満たされない分だけ貧しい彼らが、今どうやって世界と対峙しようとしているのか。そこのところがもっと見たい、感じたい。深い海の底から聞こえてくる名前の無い声に耳をかたむける、そんな姿をもっとみたいと思います。

 

                    川口智子(演出家)


川口智子 Kawaguchi Tomoko

演出家。佐藤信の個人劇団「鴎座」のフリンジ企画として、新訳による上演「ベケット・カフェ」、ダンサーや音楽パフォーマーとの創作「クレンズド・プロジェクト」(協働/辻田暁)を主宰。

<クレンズド・プロジェクト03『洗い清められ』(作/サラ・ケイン)526日・27space EDGE6月京都にて上演予定>

http://kamomeza-fringe.net/ 



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