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モメラス第3回公演『青い鳥 完全版』 松村翔子インタビュー|2018年5月

2018年5月30日(水)13:43STスポット

6月20日(水)〜7月1日(日)にモメラス第3回公演『青い鳥 完全版』が上演されます。
利賀演劇人コンクール2017で発表され、優秀演出家賞を受賞した『青い鳥』の「完全版」とは?
演出の松村翔子さんにお話を伺いました。


 
――モメラスの結成前はどのような活動をしてきたのでしょうか。
 元々はチェルフィッチュを中心に俳優として活動していました。2012年にチェルフィッチュから離れて「モメラス」を立ち上げました。自分で作品を作りたいという欲求が生まれたのと、俳優に行き詰まりを感じたんですよね。微妙な言い方ですが、単純に演出家の言うことを聞きたくないと思ってしまって、私だったらこうするのにとか、生意気にも思ってきちゃいました。単純に俳優として自分がやれることはもうやりきったって思っちゃったんですよね。きっかけになったのは『三月の5日間』の再演で、俳優って自分に対してちゃんと期待を持っていないとできないと思うんです。自分には伸びしろがあるという可能性を感じながらやるから、舞台上にいる俳優は魅力的なんだと思うんですけど、そういうものが自分の中からなくなっちゃったんですよね。ただそこにいるだけしかできないなと。それは俳優としてよくないし、一緒に関わる人にもよくないことだなと。

 
――劇団を2013年に旗揚げしてからどういう活動をしてきましたか?
 最初の上演のきっかけは「しながわアーティスト展2013」でした。音響家の牛川紀政さんや舞台美術家の杉山至さんが関わっている企画で、作・演出で声をかけてもらったのが始まりです。そのときはアートスペースでの上演で入場料無料だったのもあって気負わずにやっていました。それからいよいよ劇作家、演出家としてちゃんとやりたいと、モメラスをちゃんとした劇団にしたいと思って2015年にこまばアゴラ演劇学校・無隣館(以下、無隣館)に入りました。実習でボロクソに言われたりして泣きながら帰ることもありましたね。それがすごく悔しくて、劇を作ることや演出をすることは俳優として受けてはいたけど、自分でやったことがなかったから全然できなくて。でも今は俳優をやるより面白くなってきたんです。

 
――2017年2月にSTスポットで発表した『こしらえる』は今までとは全然雰囲気が違うって言ってましたね。この作品は岸田國士戯曲賞にもノミネートされましたが、どういうところから創作を始めましたか?

無隣館若手自主企画vol.21松村企画『こしらえる』 ©黒川武彦

 岸田戯曲賞にノミネートしていただいたことはうれしかったのですが、正直な話ちょっと恥ずかしかったです(笑)。演劇作品として面白い自信はあって傑作だと自負してますが、戯曲として読んだ時に評価がもらえるだろうと思って書いてなかったので。誰かに怒られないかなとは思いました。読むだけでは誰にも伝わらないだろうなって思っていたので、審査員に読まれちゃうのか……と。ふざけてるって思われるのではないかなと。いや、ふざけてますけど(笑)。
 この作品を構想したときは、現代口語演劇的なところから始まってそこから外れていくといいなって思いがありました。出演者が青年団員と無隣館生が多かったので、それっぽいことをやっても面白くないなぁと。混ざりそうもないものを混ぜるのが好きで、この人とこの人は相性悪いだろうなと思う人にオファーしました。「混ぜるなキケン」を混ぜる的なことをよくやります。それから参考資料を複数用意してミックスするのも好きで、『こしらえる』の時はイプセンの『人形の家』(※1)の「ノラが出ていく/出てかない」っていう部分と、内田百閒の飼い猫がいなくなったことをずっと嘆いている日記『ノラや』(※2)。あとTVドラマの『王様のレストラン』(※3)ですね。これはプレ稽古で私の気に入ったシーンを文字起こしして演じてもらうっていうことをずっとやっていました。まず、これはないだろうっていう素材を集めて、今回はこれで料理しますって出したものをみんなが「えー??」ってなってるのが楽しいです。「ね! どうなるんだろうねー!」って。その時は何も見えてないんですけど(笑)。まぁ、全く見えてないわけじゃなくて、面白いって思わせる確信はあってやってますが。
 ラストのシーンの「幸枝、やがてゴリラになる」って台本をみんなに渡したときに、私がついに狂ったって俳優たちが思ったみたいです(笑)。ハチャメチャなことをやるだけなのは簡単で、巧妙にやらないと観客はついていけなくなると思うんです。いったんこの道に行くんだろうなっていうのは見せておいて、「こういう劇なのね」と思っていたら「そっち行くんかい!」みたいな。「飛躍したな」って思うにはそこまでの段階が必要なので、『こしらえる』は外し技を頑張りました。

 

――その後、利賀演劇人コンクール2017で『青い鳥』を上演しました。今まではご自身で書かれたものを演出されていましたが、他の方が書いた戯曲を演出するときにモチベーションは変わりましたか?

松村翔子演出『青い鳥』利賀演劇人コンクール2017

 すごく大変で、すごく苦しみました。そしてうまくいかなかったと思います。自分で書いてないから、読んだ時に「作者は何を言ってるんだ?」って思って、どう演出していいのかわからなかったです。自分で書いてるときはもうわかってるから答えを教えてあげられるけど、答えを作らないといけないから難易度が高くて。メーテルリンクのことやベルギーのその時期の象徴主義(※4)が何だったのか、メーテルリンクはこの作品をどういうつもりで書いたのかとか調べました。『青い鳥』のいろいろなことを匂わせてくるのをどう表現しようか悩みましたね。幻想的な表現は自分のフィールドじゃないから、おばあさんに「青い鳥探してこい」って言われて、「うん!」ってそのまま探しに行くの君たち?ってところで引っかかっちゃいました。


 
――今回の再演で「完全版」と名付けたのはどうしてですか?
利賀での上演が完全ではなかったと思ったことが大きいです。客席で見ていてこれはまだ全然できてないと思ったので、完成させたいと思いました。戯曲に対してどういうスタンスでいるかは見えてきていましたが、それを全員で共有して見せ物として固めるところまでいかなかったと感じました。メーテルリンクのやろうとしていることに圧倒的に追いつかなかった。特に足りないと思ったのが身体性だったので、今回は万有引力などに参加している曽田明宏さんに演技指導を頼みました。
 コンクールが終わったあとインドネシアのグナワン・マルヤント(※5)さんのワークショップに参加したんですよ。「“詩”の刺激を受けた身体は、どうやって“形”を積み重ねていくのか」「いかにして〈身体は詩を書く〉のか」というテーマで、これは『青い鳥』にきっと役立つと思いまして。メンバーも一緒に参加したのですが、みんなすごく影響を受けました。このワークショップでやったことをベースに、公演がなくても集まって稽古をするという基礎練習を劇団でするようになりました。身体能力を高めるということが目的ではなくて、舞台上にいる俳優が自分の身体をどうやってコントロールするかイメージができたらいいなと思います。テキストに応じた身体、何かしらのイメージを身体に落とし込むということをひたすらやる。それを踏まえての完全版になればいいなと。


 
――特殊な空間で公演することが多いと思いますが、場所に対してのこだわりはありますか?

『青い鳥 完全版』稽古場風景

 これまで劇場ではないところでやってきて、逆にそれに助けられてきたと思っています。グランドピアノがあるとか、会場のど真ん中に柱があるとか、窓があって外が丸見えとか。そういう状況に乗っかるのは割と得意で、まっさらな状態になると怖いですね。場所に助けられていたから楽をしていたのかもしれません。その作品が面白いかどうかは、その場所にあってるかどうかに左右されるんじゃないかと思っています。その空間の雰囲気とか空気感が大事です。
 STスポットはおそらく私が一番来ている劇場なので、この空間に俳優がいることをイメージしやすいです。あと「家」感がありますね。それに白い壁が何にでもなる気がします。『青い鳥』も利賀山房(※6)とSTスポットが違いすぎて大変なんじゃないかと思ったんですけど、STスポットの方が作品を乗っけやすいなと思います。利賀山房だとこちらから寄り添っていかないと場所に弾かれてしまうという感覚があるけど、STスポットだとイメージがそのままはまってくれる感じがありますね。

 
――最近はどういうことに興味を持っていますか?
 『青い鳥』をやったからなのかその前からなのかわからないのですが、リアルをどこまでリアルと言い張れるのか、新しいリアリズムに興味があります。青年団とかチェルフィッチュは一見リアルだけど虚構の塊みたいなところがあって、でも私はそれが楽しいなと思っているんです。『こしらえる』の飛躍していく感じが「これは新しいリアルだ」って指摘されたことがありまして、全くそんなつもりで書いていなかったけど自分にとって一番うれしい感想でした。あの展開がリアルだと思えるのがヤバいなと。でもそれって現代っぽいと思うんですよね。思ってもいない方向に行くことに強烈なリアルを感じてしまうヤバさにグッとくる。自分自身も「どこに行くのかわからない」状態でいたいので積極的に事故っていきたいです。マリオカートでスイスイ進むのは楽しいけど、障害物を作ったりそれにぶつかったりしていく感じがマリオカートの真髄じゃないですか(笑)。
 メーテルリンクの象徴主義も、それまでイプセンとかのリアリズムの演劇が流行っていて、それへの反動で精神世界や内的な部分を描くべきだということで生まれたそうです。そういうことが交互に回っている気がするけど、ちょっとずつズレて進んで更新していく気がしています。今はリアルがリアルではなくなってきて、表現はどこに動いていくのか、どこに向かおうとしているのかが気になっています。


【注釈(それぞれの番号をクリックすると本文に戻ります)】
※1 イプセン『人形の家』……1879年コペンハーゲン初演。弁護士の夫から人形のように愛されていただけであったことを知ったノラが、一個の人間として生きるために夫と子供を捨てて家を出る。女性解放の問題を提起した近代社会劇の代表作。

※2 内田百閒『ノラや』……1957年初版。ある日行方知れずになった野良猫の子ノラと居つきながらも病死したクルツ。二匹の愛猫にまつわる愛情と機知とに満ちた連作14篇。

※3 『王様のレストラン』……1995年フジテレビ系列「水曜劇場」で放送。三谷幸喜脚本、松本幸四郎ほか超豪華キャストによる大ヒット料理エンタテインメントドラマ。

※4 象徴主義……19世紀末から20世紀初頭にかけて,主としてフランスを初めヨーロッパ諸国に興った芸術上の思潮。主観を強調し,外界の写実的描写よりも内面世界を象徴によって表現する立場。サンボリスム。シンボリズム。表象主義。

※5 グナワン・マルヤント(俳優、作家、演出家)……1976年ジョグジャカルタ出身・在住。1994年からテアトル・ガラシに参加。2010年よりインドネシア・ドラマティックリーディング・フェスティバル主催。客演・演出・脚本多数、短編小説・詩は様々な雑誌・新聞で数々の賞を受賞。日本での公演、共同製作も多い。

※6 利賀山房……富山県利賀芸術公園内にある古い合掌造りを改造した劇場。エントランスは、三面ガラス張り、大階段を擁した「明」の空間である。劇場内部は、日本の能舞台の形式に近いが、構造材はすべて黒く、全体に「闇」の雰囲気がある。1980年増改築、収容人員150人。

 
取材・構成:佐藤泰紀


【公演情報】
モメラス 第3回公演『青い鳥 完全版』
2018年6月20日(水) 〜7月1日(日)
作:モーリス・メーテルリンク 訳:堀口大學
演出:松村翔子(モメラス/青年団演出部)
出演:海津忠(青年団) 吉田庸(青年団) 和田華子(無隣館) 安藤真理 中野志保実
出演:井神沙恵(モメラス) 黒川武彦(モメラス) 上蓑佳代(モメラス)
https://stspot.jp/schedule/?p=4445

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