ST通信The Web Magazine from ST Spot

Aokid単独ソロ公演『I ALL YOU WORLD PLAY』対談:Aokid×橋本匠|2017年8月

2017年8月28日(月)20:04STスポット

劇場での初の単独ソロ公演を控えるAokid。過去にN.N.N.や横浜ダンスコレクションにてAokidとの共作を発表している橋本匠。互いをよく知る二人のアーティストがソロ公演に向けて対談を行いました。踊ること、上演することとは?二人で創ることと一人で創ることから向き合うこととは?


二人で踊る、一人で踊る

Aokid当たり前ですけど、二人と一人でやるのは本当に違くて。一人でパフォーマンスすることはよくやるけど、空間が限られている劇場でやるっていうこともまた大きく違いますね。今回のソロ公演に向けて、いろいろ考えあぐねていて、どうしてわざわざ一人でやる必要があるのか、とか……。でも、一人でやるってことにチャンスがある気がして。

橋本:チャンスでしょう!大チャンス。

Aokid元々、コンテンポラリーダンスを始めた時は、ソロでやるつもりだったんです。劇場で一人で作品を創って発表して、それがとても面白い作品で……という夢があったんだけど、たまたま橋本くんと作品を創ることになって、それが結構するするとうまいこといったという。

橋本:運命というものの奥深さだね(笑)

Aokid二人で創った時は、その中で徹底的に個々の持ち味を発揮して創ったというわけではなくて、折合うところを探しながら創ったって感じだよね。

橋本:そこを探る作業を言い換えると妥協点を見つけたってことなのかもしれないけどね。

Aokid二人で創っている時には向き合わずに済んでいた個人の部分に、今回は向き合える機会だなと。まだ、探っている最中だけど。

”業”を背負う

橋本:横浜ダンスコレクション2016の総評の多田(淳之介)さんの言葉が印象に残っていて。「このチームに受賞させて業を背負わせたつもり」と書いていただいたのですけど、その”業”を感じるのが僕たちには大事なことなんだなと。

Aokid受賞した時は憂鬱さもありましたね。「あーこの先いろいろやらなきゃいけない……」みたいな。賞をもらったんだからそれを証明していかなければいけないなって。

Aokid界隈の外から見た時に、ダンスって観づらいと思うんですよね。そのことに問題意識を持って早急に取り組まなくては、ダンスを観る人がどんどん減っていってしまう。でもそういう人手がいないなら、ダンサー自身がその役割を引き受けて、観た作品を言葉にして発信するとか、そういうことがもっと必要な気がしています。例えばKENTARO!!さんは、コンペを自分で企画して、そこから人材が出てきているから、すごいと思います。それで自分も代々木公園でダンス以外の人ともイベントをやったりしているんですけど(※1)。もっともっとそういうダンサー自身のアクションが必要で、新しいアイデアも実践していかなければいけないと思います。僕らの世代の人口が少ないというのもあるかもですが、ダンスに限らず危機的状況だと感じていて、だからこそやらねばいけない仕事が無数にあるように思っています。それで、多田さんがそういうコメントしてくださったのかなって。

上演するということ

Aokidもっと上演っていうものが、電車の中とかカフェとかで人と話している時のようになるといいなと。話していると熱くなってくることってあるじゃないですか。最初は何気なく話していたんだけど、盛り上がっていくうちに熱い状態で話していて、関係性が一段上のところへ行けたような感じがするみたいな。その状態ってすごいパフォーマティブだなと。そういうことに近いものが上演するということにあったらいいなと思う。

橋本:上演というのは、特殊な芸術ジャンルだと考えていて、僕はパフォーマンスをやるけど、できることなら自分の作品を客観的に見たいんですよ。でもそれは物理的にできないことだから諦めていることだけど、その形態の特殊さが逆に面白いと思う。「自分が他の誰でもない私である」ということ、つまり人間の実存に大きく関わってきていて、それを問題とし扱っている表現ジャンルだからこそ、できることがたくさんあって。それはすごく価値のあることで、人生の大事なことを表している。

Aokidうーん。もうひと声!

橋本:もうひと声?上演について?

Aokid実存について。

橋本:一つ言えるのは、「他の誰でもない私である」を上演において大事にすることとテクニックを大事にすることは矛盾していなくて、その二つを両立させているのが、いい表現なんだと思う。他でもないその人を見せる。やたら見せてきて、それを見ざるをえないというか。でもそれだけでは成り立たないので、そこのバランスで作品が出来上がる。なんだか当たり前のことを言っているような気がするけど。

Aokidダンスや演劇において、イメージを作りすぎた上演ってもったいないと思うんですよね。じゃあそれ映画でいいじゃんって。せっかくライブでやってるんだったら、もっと予定調和でないイレギュラーなことが起きたりしていいんじゃないかなって。今はあまりそれを素直にやりきれていないけど、でもそういうことを演出に使ったりもする……みたいな。宙ぶらりんな感じで、それがなぜ踊るのかってことに対しての照れ隠しみたいになっていて、アクセスしづらくなっているのかも……。

「外してくる人」

Aokid自分がダンスを始めたきっかけは「ビタミンすぅ〜MATCH」(※2)のCMだったんです。変に思われるかもしれないけど、そのダンスにはいろいろなことが詰まっているような気がしていて。学校の教室の中で喋っている人たちがいる、さらにその隅っこで踊っている人たちがいるっていう、それだけの内容なんですけど、自分たちの好きなことを周りの目も気にせずやっているってことが大事だなって。そういう「外してくる人」って世の中には必要だと思うんですよね。なんなのかよくわからないけどハッとしたり、感動したりするもの。それは必ずしもダンスに限らないけれど。でも、そういうことだけをやり続けるのは素人でもできることで、それだったら僕はダンサーである必要は全くなくなっちゃうから。「外してくる」ってことや作品を創って感動させるっていうことをダンサーとして仕事にしていきたい。

橋本:今回の作品はどうなの?

Aokid今回もそういうとこに向かっていくと思う。感動させたいなー。

橋本:感動させたいんだ。

Aokid他にそういうことをやっている人が少ないから、それを引き受けているってところはあると思う。今回の作品は、自分が今まで感動してきたものとコミュニケーションをとるものであるべきだと思っていて。自分を突き動かしてきたものたちと呼応したいっていうか。自分が観てきたもの、映画や本や音楽とかの世界観を自分の身体を通して、熱中させたい。

橋本:もっとやらなきゃだめだよね、呼応するには。

Aokidどうしよー怖いなー。(二人で創る時とは)違うもの創らなきゃなーと思うし、すごいものを創らなきゃと思う。

橋本:別に違うことしなきゃって思わなくていいし、等身大でいいんじゃない? 等身大だけど、家系全部盛りを2軒はしごするみたいな……。

Aokid全然わからないけど、それ(笑)

橋本:過剰さに過剰さを重ねるみたいな……。

Aokidめっちゃ過剰じゃん!(笑)

橋本:そう。

Aokid42.195キロを走りきる……みたいなこと?

橋本:フルマラソンの後にもう一度フルマラソンする、みたいな。

Aokidうわーいやだー!でもそれくらいのことやらなきゃいけないんだなー……。

橋本:それくらいのことをやらなきゃというよりは、やっても楽しいかなくらいのことじゃない?

Aokid……頑張ろう。つまらなかったらがっかりしてくれ!

橋本:でもさ、フルマラソンを走りきった人に対してさ、つまらなかったと思ったとしても、ちゃんとその人の意思や思想を感じると思うんだよね。ちゃんと走りきってさえいたら。その安心感は持っていていいというより、持っていたほうがいい。

Aokidなるほどー……。あー怖いなー……。

橋本:恐怖が大事だよね。恐怖が制作過程でないのは面白くならないよ。でも走りきりさえすれば担保されるものがあるということですよ。

(※1)Aokidが主催・キュレーションする企画「どうぶつえん」。代々木公園内を移動しながらパフォーマンスやパフォーマンス未然のものを体験していくイベント。2016年11月には京都・鴨川近辺でも開催。(https://doubutsuenzoo.tumblr.com/)
(※2)大塚食品が製造・販売しているビタミン炭酸飲料「MACTH」

取材日:8/9(水)、取材・構成:萩谷早枝子


【プロフィール】
Aokid:1988 年東京生まれ。14 歳の頃、ビタミンすぅ~MATCH のCM を見てダンスを始める。2008 年ブレイクダンスの世界大会に出場。東京造形大学映画専攻に在学中よりパフォーマンス、イベント、ビデオアート、ドローイングなどに興味を持ち制作の幅を広げる。ダンス活動と並行し展示も行い、色々な方法を使っての活動を試みてそれぞれを繋げたり、違いを探り、またそれを行き来する身体と思考を獲得しようと模索している。横浜ダンスコレクション2016 コンペティションⅠ審査員賞、第12 回1_WALL グラフィックグランプリを受賞。iamaokid.tumblr.com
橋本匠:トランスフォーマー。「イメージ」が人類に与える影響を自分なりに表現する。その過程でインプロヴィゼーション方法論「トランスフォーめいそう」を構築する。美術シーンを中心に多くの場でソロパフォーマンスを発表している。俳優として演劇作品への出演。演劇ユニット山山山や、吉原芸術大サービスの企画運営なども。http://takumihashimoto.info/


【公演情報】
Aokid単独ソロ公演
『I ALL YOU WORLD PLAY』
2017 年8 月31 日(木)~ 9 月3 日(日)
振付・出演:Aokid
https://stspot.jp/schedule/?p=3781

戻る