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【特集】20周年特別号寄稿文:岡田利規(劇作家/演出家)|2008年7月

2008年7月08日(火)17:02アーカイブ

僕がSTスポットに初めて関わったのは、1999年でした。
当時STは「スパーキングシアター」という、ショーケース形式の演劇フェスティヴァルをやっていて、それに参加したのです。
コンペになっていて、優勝すると会場使用料免除で公演が打てたり、来年のフェスにも参加できたりすることになっていました。
むろん優勝をねらいましたが、僕らは三位でした。そのとき一位だったのは中野成樹くんでした。
「桜の園」を20分にリミックスした感じのものをやっていたのですが、確かに面白かった。彼とはこのときに知り合いました。
そういえば、このフェスを取り仕切る舞台監督のアシスタントみたいな感じで、こまごまと下働きしていたのは、山田うんさんでした。
僕は、はじめうんさんがダンスをやっている人だということは知りませんでした。

そのフェスティヴァルがきっかけで、STになにかと出入りするようになりました。それでダンスも見るようになりました。
当時は、ダンスは演劇よりずっと自由な気がして、僕はずいぶんと嫉妬をしました。
そして、ダンスに負けないくらい自由な演劇を作りたいと思っていました。
そうした中で、いつのまにか僕は、僕なりの演劇のスタイルというものを作り出せていったのだと思います。
そのうち、手塚夏子さんと知り合って合同で公演をしたり、ほうほう堂と知り合って一緒に作品を作ったりしました。

結局、みんな試行錯誤を積極的にやり、なにかを得ていく、ということを、当時からしていた人たちだった。
もしかしたら元からそうした資質のあった人たちだったのかもしれない。
でも、少なくとも僕は、そういうやり方が自分を先に進めてくれるということを学んだのは、STスポットで得た交流や経験の結果としてのことです。

あの時期のSTに出入りしていたことで得たことの大きさははかりしれない、と考えている僕なので、STがこれからもそうした場であることを、僕は切に望んでいます。
そしてこれまでの20年間にSTが刻んできた歴史がとても意義深いものだと僕が思っているということも、ここで声高に叫んでおきたいと思います。
20周年おめでとうございます。そしてこれからも、期待しています。
STにというよりも、それ以上に、STをそうした場にしていく若いアーティストたちの出現がこれからも絶えることがないだろうということに。


筆者プロフィール
岡田利規(おかだとしき)
演劇作家。小説家。97年に「チェルフィッチュ」を結成。横浜STスポットを拠点に活動。
04年発表の、『三月の5日間』で第49回岸田戯曲賞を受賞。
選考委員からは、演劇というシステムに対する強烈な疑義と、それを逆手に取った鮮やかな構想が高く評価された。http://chelfitsch.net
※プロフィールは2008年7月時点のものです。

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