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地域と共に活動する|2018年1月

2018年1月12日(金)15:31地域連携事業部

STスポット開館30周年で大わらわだった旧年も無事に終わり、平成30年になりました。今年の仕事始めは、担当しているヨコハマアートサイト(https://y-artsite.org/index.html)の採択事業視察。京劇の公演を見に行きました。
ヨコハマアートサイトは、横浜市の助成プログラムです。STスポット横浜と、横浜市文化観光局と、横浜市芸術文化振興財団の三者で事務局を行っています。助成金と言えばずっと申請する側だった自分が、こうして事務局として送られてきた申請書を読んでいるなんていまだに不思議な気分です。
「地域と共に活動する芸術文化の発展と成長をサポートする」というのがヨコハマアートサイトの主旨です。「優れた芸術文化活動」ではなく、「芸術文化の発展と成長」をサポートするのです。それも「地域と共に活動する」ものであること。ここがポイントです。最近は芸術祭やアートプロジェクトといった、地域で展開される芸術文化活動を多く見かけるようになりましたが、ヨコハマアートサイトは特に、この「地域と共に活動する」を重視しています。でも、じゃあ地域っていったい何なのでしょう。

■まずは歩いて地域を知る
私がSTスポット横浜にきて最初に任された仕事は、各区役所の地域振興課や区民文化センター、区民活動支援センターをまわってラックに配架されているチラシを集めてくることでした。初めのうちはなにがなにやらで、とにかく文化に関係ありそうなものをから一つずつ端から取っていきました。広報よこはま、イベントカレンダー、地区センターだより、コンサートのチラシ……あっという間に持っていたバインダーはパンパンに膨れました。ちなみに事務所ではこのチラシ集めを「昆虫採集」と呼んでいました。確かに自然環境調査の際に昆虫を採集するのと少し似ているかもしれません。そのうちに少しずつ、どこでも手に入るものと、レアなものとが見分けられるようになっていきます。ここは子育ての情報が多い、多言語での表記がついている、こっちは福祉に力を入れているらしいというようなことも見えてきました。そうしてから、フリースペースの様子を覗いたり、近くの商店街を通り抜けたりしていると、ぼんやりと地域ごとに流れる空気の違いを感じます。

■地域を記号化しない
横浜には寿と呼ばれる地区があります。昭和32年に職業安定所を中心に簡易宿泊所が立ち並び形成された地域で、「かつて日雇労働者が中心であったまちの姿が大きく変貌し、生活保護受給している単身世帯が多く生活する福祉ニーズの高いまち」になったと言われています。この地域と川を隔てたところにある場所で続くのが、2012年度よりヨコハマアートサイトにて継続採択されている「カドベヤ・オープンDAY」(http://www.kadobeya2010.net/)です。

カドベヤでのワークショップの様子(2014年)

カドベヤでのワークショップの様子(2014年)

カドベヤはその名の通り住宅地の角にある小さなスペースで、毎週火曜日の夕方にオープンしています。その日集まった人たちとストレッチをして、夕飯をつくって食べるというのが基本メニュー。ストレッチは体だけではなくアタマやココロをほぐす為のもので、踊ったり歌ったり、絵を描いたりおしゃべりをしたりと内容は週替わりです。年齢も職業もバラバラな人たちが集まるこの場所は、元々は寿で生活する人々を対象に、孤立社会を考えるきっかけを求めた教育プログラムの一環としてスタートしました。
私はそれを、川向うにある特定の地域のためのアート活動だと理解していました。地域課題を抱えた地域と、その周辺地域があるようなイメージだったのです。実際に足を運んで、集まった人々と食卓を囲んでおしゃべりしているうち、それが間違いであったことに気づきました。川の向こうもこっちもなく、どの地域もそれぞれに課題を抱えていて、グラデーションの中で色の濃いところが見えやすいだけ。思えば自分の住むまちも、のどかで知名度は高くないけれど、決してどこかの「周辺地域」ではありません。知らず知らずのうちに、地域を記号的に捉えていたことに気付かされました。

ヨコハマアートサイトの採択事業を通して地域文化を考えるとき、昆虫採集とカドベヤでの体験は、今もどこかで活きています。ところで記号化と言えば、私の住むまちは「横浜のチベット」と呼ばれています。呼んでいるのは住民です。他の地域からも呼ばれているのかはわかりませんが(そして同じようにチベットを自称する地域は他にもあるらしい)、そう呼ぶときは大抵苦笑を伴っています。困っているのは確かだけれど、どこか自慢げにも聞こえておもしろい感覚です。

(文:池田友実)

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