ST通信The Web Magazine from ST Spot

【特集】20周年特別号寄稿文:加藤弓奈(STスポット前館長)|2008年7月

2008年7月08日(火)16:05アーカイブ

「ホーム」

STスポットと私の出逢いは劇的なものではありません。でも互いに大きな節目だったことは事実です。
就職先の決まっていない大学4年生と15周年を迎えた小劇場。
インターンとしてお世話になっていて、様々な事業のお手伝いをしました。気がつけば新年度から職員になっていました。

働き始めた頃は何もわからず、ドキドキしながら小屋番をしていました。
舞台用語混じりの会話は暗号みたいだし、たまにすごく怖いスタッフさんもいるし…今思うと、頼りない劇場職員でした。
転機が訪れたのは6月。チェルフィッチュ、中野成樹+フランケンズ、ぺピン結構設計という3団体が合同で劇場を借り、各々が30分程の作品を上演するという企画でした。

この時、アーティスト主導で「こういうことをやりたい!」と思えるような劇場なんだ、ということに改めて気がつきました。
そして、それを受け止めることができる劇場だということも。当時、職員は岡崎さん、田中さん、私でした。
歴代館長3人が揃っていたと思うと、感慨深いものがあります。
職員を始め、STに関わるスタッフは皆、目の前にいるアーティストにとってベストの環境を一緒に作り上げようと、あらゆるサポートをします。
無理をしているわけでも、押し付けがましいわけでもなく、独特のスタンスを持っています。
そのことに気がついたとき、とても気が楽になりましたし、こういう人に私もなるんだ、という目標ができました。

あれから五年。楽しいことも、悔しいこともありました。利用者の数だけ、出逢いとハプニングが起こりました。
作り手にとって、劇場を借り上演をする、ということはものすごいエネルギーを要します。時間もお金もかかります。
その不安やストレスをちょっとでも解消してあげることがSTらしさだと思います。私にはマイナスをプラスに転じさせるだけの力はありません。
でも、マイナスをゼロまで持ってくためのお手伝いをしようと、努めてきました。

今、私は別の劇場に勤務しています。正直、淋しい気持ちもあります。
でも劇場が変わってもSTで培ったマインドは変わらないでしょう。経験を積んで成長したら、再会しようと思います。
たとえ私を知らなくても、職員は「お帰りなさい」と迎えてくれるでしょう。STスポットは何年経っても、関わったすべての人にとってのホームであるはずです。
最後にSTへの私信を。

「5年間、本当にありがとう。どこにいても心はホームに。」


筆者プロフィール
加藤 弓奈(かとうゆみな)
まつもと市民芸術館・企画制作専門職員
1980年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。卒業後、STスポット職員として勤務。演劇制作を担当。2005年に館長就任。2008年5月より現職。

※プロフィールは2008年7月時点のものです。

戻る