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東京デスロック『ARE YOU HAPPY ???〜幸せ占う3本立て〜』多田淳之介インタビュー|2017年9月

2017年9月18日(月)19:27STスポット

東京デスロックにとって9年ぶりとなる3本立て公演「ARE YOU HAPPY ???〜幸せ占う3本立て〜」に先駆けて、主宰の多田淳之介氏にインタビューを行いました。これまでとこれからのことを想像しながら、「今、ここ」を考え続ける多田氏と東京デスロック。あなたは今、幸せですか?


—『ARE YOU HAPPY ???〜幸せ占う3本立て〜』ということですが、これまで「演劇LOVE」や「地域密着 拠点日本」と掲げてきて、「幸せ」に行き着いたのはなぜですか?
多田:2011年以降、今の、特に日本で暮らしている人たちに作品を見せるときに、どういうものを見せるかということを考えてきました。『Peace(at any cost?)』(※1)では平和について考える場所つくりということから、その場に来た人たちが平和への思いを巡らすという作品だったと思います。『Peace(at any cost?)』上演時は終戦から70年目だったり、震災から5年目という状況でその中でどう平和について考えるかということでしたが、今回は、今、日本が幸せな方向へ向かっているかというと今までの価値観ではなかなかそうは思えない社会状況ですよね。でも例えば子供がいる人は子供との時間だったり、音楽が好きな人は音楽を聞いているときだったり、そういう日々の幸せはある、じゃあその日々の幸せと、日本や世界が幸せに向かっているかということをどう考えるか。「Are you happy?」と聞かれた時に、「Yes, I am happy」なのか「Yes, We are happy」なのか。個人から国、地球全体までどこで線引きするかだとは思いますが、今回は日本という括りで考えられたらと思っています。

 

—今回は『3人いる!』と『再生』と『ハッピーな日々』の3本立てですが、若手のための企画でありながら、劇団として次へのステップへ繋がるような印象ですね。
多田:新しいメンバーも増えたので久々に劇団として3本立てをやってみようかなというのが企画の始まりでした。演目を考えたときに『3人いる!』と『再生』だったらこの「幸せ」というテーマと絡められるし、この2演目は再演しようにも若い人じゃないとできない作品なのでちょうど良いタイミングでした。『再生』なんてアラフォーでやってもあんな元気ないし(笑)

 

—今回は『再/生』(以下、スラッシュ版 ※2)では、なく『再生』なのですね。
多田:スラッシュ版は今ダンスでやっている(※3)のもあるし、今回は旧バージョンの演劇版をやります。スラッシュ版やダンス版はその都度のクリエーションで生物の進化みたいに枝分かれして今や別作品になっていて、演劇バージョンはその原型なんですが、2006年の初演時のテーマであった集団自殺はその当時の身近な死でしたが、今はもう自ら死を選ぶことだけじゃなく天災や戦争とか、いろいろな形の死が身近になっているので、その辺りも扱えたら面白いし、演劇版はかなり今の人たちと繋がりやすい表現ができるのではと思っています。
初演を作っているときはわからなかったんですが、作り終わってみたら「死ぬ」ということを扱った作品だったのが、逆に生きているということを賛美するような、「生きていく」強さを描いた作品になっていて、それまで死ぬ話ばかりずっと書いていたんですが、『再生』で生きているということをポジティブに捉えていく方向に作風もシフトチェンジしたんです。今回の再演もその方向にはなると思います。死ぬことと生きることと、両方あるのが当たり前で、その当たり前のことを当たり前にやりたいですね。

 

—再演が2本ある中で、新作としてベケットの『Happy Days』をやると聞いたときに、なんてタイムリーなんだろうと思いました。ベケットを上演するのは今回が初めてですか?
多田:はい、初めてです。『ゴドーを待ちながら』も『Happy Days』もずっとやりたいとは思っていたんですけど、なかなかタイミングがなくて。そもそも2人しか登場人物がいないから、なかなか劇団公演として上演するのも難しくて、3本立てならではですね。

 

—確かにそうですね。ところで多田さんにとってSTスポットはどういう場所でしょうか?
多田:“アジト”ですかね。アラフォー世代でSTスポットを使っている人たちの、共有のアジトみたいな感覚はあります。アジトだからか、STなら挑めることというのもありますね。場所の要素ももちろんあるけど、同じくらい人の要素も強い印象がありますね。それは急な坂スタジオで稽古をして、STで上演するという体制も含めてのことですが、昔からSTが持っている、場所だけを一定期間借りて上演するだけじゃなくて、場所の人と一緒に創る感覚。普通のブラックボックスだとどうしようもなく劇場になってしまうから、劇場でやらなきゃいけないみたいな感覚が生まれてしまうんですけど、STは壁も白いし、雰囲気もただのフラットな「場所」な気がします。その「場所」を劇場にするのか、他の何かにするのかっていうことからスタートできるのが結構大きいのかな。立地も「東京ではない」という一つのハードルがあるところというのも心地良いですね。東京の人たちにわざわざ観に来てもらうという意味でも。

 

—再演と聞くと“過去”という印象を一見、受けますが、やはり東京デスロックが変わらずにやってきていることは「今、ここ」を表現に扱うことですよね。
多田:3本とも観ていただくことで、東京デスロックの変遷も感じとってもらえるかと思います。順番的にも『3人いる!』は台詞劇だし、『再生』はノンバーバルの要素も強いし、『ハッピーな日々』は既成戯曲ですからね。最近は戯曲がない作品も作っていますが、前作の『亡国の三人姉妹』でも久しぶりに戯曲を扱って、横文字シリーズ(※4)ではなく、普通に客席がある公演でしたし、戯曲を使った方が実は「今、ここ」がはっきりするとも思っています。
『ハッピーな日々』は、チラシに「演出の都合上、一部観劇状態を指定させていただく場合がございます」とも書いてあるんですけども、これはまだ何をどうするかわかりませんが、観客と一緒に場つくりができれば良いなとは思っています。この作品だけ12月にキラリ☆ふじみでも上演しますが、キラリとSTでは、全く違うものになると思います。また3作品とも来年以降にいろいろな土地でも上演できたらいいなと思っていて、そのスタート地点として、まずは横浜公演ですね。

 

(※1)東京デスロック『Peace (at any cost?)』。2015年8月に《70 YEARS PAST FROM 1945.8 VER.》、2016年3月に《5 years past from 2011.3 ver.》をそれぞれ2都市で上演。
(※2)東京デスロック『再/生』。2011〜2012年の夏と冬に分け、国内6ヵ所と韓国を回るツアー公演。現地の俳優による別バージョンとの二本立て公演、現地の劇団との合同公演など、各地の劇場、アーティストとのコラボレーションを重ねた。
(※3)『RE/PLAY Dance Edit』。きたまりがディレクターを務めた「We dance 京都2012」にて『再/生』のダンスバージョンとして初演。以降、横浜、シンガポール、プノンペンで各地のダンサーとコラボレーションを重ねてきた。11月に京都公演、2018年1月にマニラ公演を予定。http://www.wedance.jp/replay/
(※4)『MORATORIUM モラトリアム』『REHABILITATION リハビリテーション』『COUNSELING カウンセリング』『SYMPOSIUM シンポジウム』『CEREMONY セレモニー』と続く、客席と舞台上の境界を改めて考え直すことで、「今、ここ」を考えるために上演するシリーズ。

 

2017年8月16日/急な坂スタジオにて インタビュー・構成:佐藤泰紀


プロフィール:
多田淳之介
1976年生まれ、千葉県出身。演出家、東京デスロック主宰、富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ芸術監督。俳優の身体、観客、劇場空間を含めた、現前=現象にフォーカスした演劇作品を発表。既成の演劇の枠組みに囚われない演出方法は、公演毎に話題を呼び、国内外の公演、共同制作、ワークショプ等多数。2010年から富士見市民文化会館キラリ☆ふじみの芸術監督に就任。2013 年に日韓共同製作作品『カルメギ』に於いて韓国で最も権威のある東亜演劇賞演出賞を外国人として初受賞。


東京デスロック「ARE YOU HAPPY ???〜幸せ占う3本立て〜」
2017年9月30日(土)〜10月14日(土)
詳細:http://stspot.jp/schedule/?p=3742

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