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ユーモアの先にある風景 ーシラカン(西 岳・岩田里都・石橋侑紀・加藤 玲)インタビュー|2022年9月

2022年9月30日(金)16:17STスポット

横浜を拠点に活動する演劇団体「シラカン」。その新作『シラカンの西遊記 GO!!』が2022年10月1日(土)〜5日(水)にSTスポットで上演されます。
これまで主宰の西 岳さんが作・演出するオリジナル作品をいくつもSTスポットで発表してきましたが、原作ものへの挑戦は今回が初となります。シラカンの世界は一体どのようにつくられているのか。メンバーである西 岳さん・岩田里都さん・石橋侑紀さん・加藤 玲さんの4名にお話を伺いました。


『ぞう騒々』(2020年/ロームシアター京都 ノースホール)撮影:小嶋謙介

シラカンのあゆみ

――シラカンの結成は、2016年。旗揚げ公演『永遠とわ』は、東京学生演劇祭で大賞と審査員個人賞、佐藤佐吉演劇賞の優秀作品賞を受賞。さらに、翌年の全国学生演劇祭でも審査員賞、観客賞、大賞の三冠を達成しました。

西
東京学生演劇祭に参加するため、大学の同期とふたりでシラカンを結成しました。場所は用賀のモスバーガーでした。
その日はたまたま彼と朝まで飲んでいて、なぜか流れ着いたのがその店だったんです。彼の携帯に大学の先輩から電話がかかってきて「今度、東京学生演劇祭っていうのがあるから、もしよかったら出ない?」と誘われました。どうやら東京学生演劇祭がまだ始まったばかりで開催をするのに必要な団体の数が足りてなかったみたいなんです。とはいえ、いい機会なのでその場で自分たちの団体を立ち上げて参加することにしました。
旗揚げ公演を評価してもらったのは運がよかっただけなんですが、当時の僕は天狗だったそうです……(笑)。

一同
(笑)

岩田
たしかに当時の西くんは、教室で会っても“外部でやってますよ感”を放ってましたね。「授業とか出られないんでよろしく」みたいな(笑)。

西
そんな言い方はしてないと思うけどなあ……。

岩田
あくまで雰囲気だから(笑)。

――当時、西さんは多摩美術大学の演劇舞踊デザイン学科の2年生でした。メンバーのみなさんも多摩美術大学の出身ですよね。

西
岩田さん、石橋さんは演劇舞踊デザイン学科の同期になります。僕らが通っていた多摩美の上野毛キャンパスにはもうひとつデザインを中心に学ぶ統合デザイン学科というところがあり、加藤くんはそこに通っていました。

岩田
旗揚げ公演をクラスメートとして私は観に行き、そこからシラカンとの関係が始まりました。出演をするようになったのは第2回公演の『悠然とそびえる』からです。

石橋
私は旗揚げのときからスタッフとして関わっていて、シラカンでは主に舞台監督を任せてもらっています。

加藤
演劇舞踊デザイン学科の人は学内公演のフライヤーを統合デザイン学科の人にお願いするという慣習があるみたいで、学生時代になんどか僕も引き受けていました。
ただ、西くんとは大学の映像研究サークルで出会いました。在学中はその後も顔を合わせたら話をするくらいの関係でしたね。シラカンのフライヤーを制作するようになったのは、2019年の『蜜をそ削ぐ』からです。

西
演劇舞踊デザイン学科には卒業公演というのがあって、そのフライヤーをつくってくれたのが加藤くんだったんです。それがきっかけとなって、一緒にシラカンをやろうと声をかけました。

――「シラカン」という団体名はどうやって決まったんですか。

西
はじめは「アーバンエアー」という、いまとまったく違う別の名前にするはずでした。
僕と旗揚げメンバーの相方はおたがいに地方出身だったので「東京以外の自分たちの地元でも公演をしたい」という思いがあり、それを名前でも表したかったのと、僕はスニーカーが好きで「エアマックス」みたいな名前がかっこいいなと思っていたので(笑)。東京学生演劇祭にもその名前で登録までしていました。
ところが、演劇祭の直前に彼の方がそれを変えたいと言いだしたんです。「トレードマークになる団体のロゴをつくりたいから、生き物の名前を入れたい。劇団鯉とかどう?」と。さすがに「劇団鯉」はダサいと思ったので、「魚だったらシーラカンスの方がまだいい」と答えたところ、最終的に「シラカン」に落ち着きました。

――それまでに舞台の作・演出を経験したことはありましたか。

西
短編を一本、学内のオムニバス公演でしただけでした。
大学に入るまでは演劇のことすらよく分かっていませんでしたが、自分の書いた作品を上演したいという気持ちはありました。

石橋
上野毛キャンパスには学生が自治する部活やサークルがなかったので、公演を打ちたい人たちは自然発生的に仲間を集めて劇団やユニットを組んでいました。

西
僕は昔からお笑いが好きで、文化祭で漫才をしたりしていたので、お笑い芸人になりたいと思っていた時期もあります。ただ、自分は普通の大学に進学して、一般企業に就職して、結婚するんだろうなと思っていました。
しかし大学受験に失敗して、進学せずに働いていました。そこから多摩美に入ったのは、何かをつくるとはどういうことなのかを学んでみたかったからです。

――これまでに京都、名古屋、鳥取と首都圏以外の劇場でも多く公演をされていますね。

西
結成のときから地方公演はずっと大事にしています。各地の劇場の人たちにもよくしていただくことが多く、そういった点では恵まれていると思います。

岩田
鳥取の「鳥の劇場」は野外での公演だったので、それも楽しかったです。
山の中なので天気がコロコロと変わるんですよね。ある日、本番中に雨が降り出したことがありました。開演前に「雨、やむといいね」なんて話していたら、ちょうど雨がやんで「よかった、これでできるね」と舞台に出ていったら、結局また降り出してきて、ビチョビチョになりながら芝居しました。まわりのパワーが強すぎて、自然には全然かなわないなと思いました(笑)。
それから、まちを歩いていたら地域の方々に声をかけていただいたのも嬉しかったです。「さっき出てたよね」とか「寒くない? 風邪ひかないようにね」と言ってもらって。私も地方出身ですけど、地元にいたときはそういった身近に演劇を感じることがなかったので、暮らしの近くに演劇があるのはいいなと感じました。

西
今後はメンバー全員の地元でもやりたいですし、地方の演劇祭にも積極的に参加していきたいです。ほんとは自分たちで予算を組んでツアーをするくらいの気概を持たないと、とは思っているんですけどね。

『爽快なたてまえ・爽快にたてまえ』(2020年/鳥の劇場 野外劇場)

――一方で、2019年からは横浜を拠点に活動されています。

西
大学のキャンパスがある上野毛からも30分くらいで行けるし、STスポットやKAATにも学生時代によく観劇に行っていたので、自分たちが公演をしてみたいと思う劇場が多くある横浜に根ざすことにしました。
活動としては「かながわ短編演劇アワード」に参加したり、STスポットで継続的に公演を行ったりしています。その他にも自分たちからアグレッシブに関わっていきたいと思える場所ですね。

――具体的に何か挑戦してみたいことはありますか。

西
ワークショップをやってみたいです。劇場に観に来てもらうだけでなく、こちらから地域に出かけていく活動もしていきたいなと思っています。子どもたちを対象にした学校での演劇教育ワークショップにも興味あります。

ユーモアの向こう側

――今年で結成から6年目です。何か変化を感じることはありますか。

西
8人いたメンバーが4人になりました。

石橋
それはそうだけど……。
前よりもメンバー同士が仲良くなったと思います。演劇とは関係なくこの4人で旅行に行くようにもなりましたし。面白いと感じることの価値観を共有している友達みたいな関係性になりました。それまでは公演のために集まるというニュアンスが強かった気がします。いわゆる「劇団」っぽかった。それが公演に限らず面白いことをやるために集まることが増えました。

西
公演に参加してくれる人たちも学生の頃からの知り合いが多いので、僕らのことを理解したうえでうまく巻きこまれてくれています。今後はもっと文脈の違う人たちとも交流していきたいですね。

――作品のクリエーションについてはいかがでしょう。

岩田
その時々で西くんの興味の対象が変わるので、必然的に作品の雰囲気も変わるとは思います。ただ、根本的な部分は一貫していると思います。
それでも最近は少しずつ変化してきたのかなと感じますね。初期の頃は西くんに先行するイメージがいまよりも強くありました。稽古のときに「こうしてほしい」という理想像が本人の頭の中にあるように感じることが多かったです。

西
その頃は俳優さんが台本を覚えてリズムよく喋ってくれるだけで楽しかったんだと思います。自分の書いたものを思ってもみないようなやり方で演じてくれるなんて、すごいことだなと。
そういう意味では稽古もスムーズだったかもしれません。演出にしても「はやく、おそく、もっと間をつめて」くらいで、動きもパッパッと決めていっていました。

石橋
台本も初期の方が言葉遊びやポエジーな台詞が多かった印象があります。そうした表現の質は変わってきているかもしれません。最近はどちらかというと会話劇に寄ってきているのかな。

西
いまでも憧れはありますけど、当時は舞台上の俳優さんが発する詩的な台詞やドラマチックな展開に胸を打たれることが多かったので、自分でも感情をグワーンと揺さぶるものをつくりたいと考えていました。純粋にスペクタクルな演劇を志向していましたね。

石橋
“エモみ”だよね(笑)。

西
そうだね(笑)。そういうエモーショナルなものがいいなと素直に思っていました。劇的なものって劇場を出たあとも残るじゃないですか。とにかく壮大なものがつくりたかったんだと思います。
ただ、多摩美の先生だったFUKAIPRODUCE羽衣の糸井さんに「西くんの強みはそこじゃないと思うよ」と言われたことがありました。「かみあわない会話があれだけ書けるんだから、そこを伸ばしていったらいいんじゃない」と。たしかに風変わりなシチュエーションを設定して、そこに巻き込まれていく人々を描いたときの方が観客の反応もよかったんですよね。それで最近はそちらの方向性にも取り組むようになりました。

――今年の春にSTスポットで上演された第8回公演『マがあく』は、ある部屋を訪れた人々の主張がかみあわずに、舞台空間が不確かな状況に変貌していく作品でした。シラカンの作風は「不条理劇」と評されることもあります。安部公房や別役実、イヨネスコといった作家は意識されていますか。

西
もちろん面白いなと思って読んではいますが、戯曲の文体や構造を意識して真似てみるということはないですね。メンバーともよく話すんですが、自分たちでは不条理劇をやっているつもりはないです。
でも「不条理劇じゃないなら何なんだ」と言われたら「不条理劇をやっているつもりはない」としか言えないので、「じゃあ、シラカンって何なんだろう?」っていうのをみんなで探していけたら楽しいなと思っている最中です。

石橋
“ヨーモア”じゃないの?

西
そうね。一応「ユーモアの先の“ヨーモア”だ」とは言ってるんですけど、ただ、この説明を毎回しないと「ん?」ってなりますよね。だから、たぶん違うんだろうなとは感じています(笑)。なので、もう少し誰が聞いてもピンとくる言葉が見つかるといいなとは思っています。

『マがあく』(2022年/STスポット)撮影:小嶋謙介

西遊記と二次創作

――10月1日からはその名のとおり「西遊記」を題材とした新作『シラカンの西遊記 GO!!』がSTスポットで上演されます。

西
原作があるものをやりたいっていう思いは元々ありました。シラカンでは公演の感想会というのをZoomでやっていて、以前それに参加してくれたドラマトゥルクの朴建雄さんから「シラカンで西遊記やってるのを観てみたい」とポロッと言われて盛りあがったことがあったんです。そこから「西遊記」について調べるようになりました。
調べていくうちに、全部で100話あることや、作者も呉承恩という人だといわれているけど実はそれも不詳であることなど、いろいろと知りました。
先ほどの話とも繋がりますが、これまでは僕の中にあるイメージを俳優さんたちに具現化してもらうということを稽古場でしていたと思うんですね。でも、それとは異なる方法を試してみたい欲求もずっとあった。ただ、それをどうしたら実現できるのかが分かりませんでした。
それで今回「西遊記」を原作に選ぶことにしました。
そもそも「西遊記」って、いわば二次創作的につくられたものなんですよ。天竺(インド)へ仏教の経典を求めて旅した中国の玄奘三蔵の逸話がいろんな人の手によって発展しながらまとめられているので。
なので、ここに集まったみんなのイメージや、イメージできていない「なんなんだこれ」みたいな、そういったヘンテコなものをできるだけ詰めこむには、イメージの集合体である「西遊記」は適していると思ったんです。

岩田
稽古もいままでは台本がまずあって、それを基にしていたのが、今回はエチュードみたいに状況だけ与えられて、いちから場面をつくっています。
「とりあえずやってみて」と言われて、自分の想像を膨らませて演じるのは、楽しくもあり、しんどくもありますね。少ない人数で稽古していると私はどんどん不安になっていくんですけど、メンバーが感想を言ってくれて、みんなの思ったことが少しずつ乗っかっていくと安心できる気がします。

西
今回は僕も出演します。これまでは演出としてただ座って見ているだけでしたけど「俳優ってやっぱりすげえなあ」と思いながら一緒に舞台に立って稽古しています。いやあ、舞台に立つのは楽しいですね(笑)。

石橋
私は「作品がよくなるなら多少は無理してもいいや」と思っていた時期もありました。でもいまは心境の変化もあって「稽古が楽しくなきゃダメじゃない?」と感じるようになりました。これはスタッフとして他の現場で経験したことも影響していると思います。
まだ最終的なクレジットがどうなるかは分かりませんが、おそらく「演出:西 岳」にはならない気がしていて。少なくとも思ったことをみんなが言える環境で創作できていることが、私は嬉しいです(笑)。

加藤
僕は稽古場にいる機会が多くはないので、石橋さんからよく稽古の雰囲気の話を聞いて「殺伐としていることが多いのかな」と想像していたんですけど(笑)、今日来てみたらそういう感じではなかったです。
作品もはじめて観ましたが、純粋に面白いと感じたので本番が楽しみです。

『シラカンの西遊記 GO!!』のリハーサル風景

――公演はどんな人に観に来てもらいたいですか。

西
シラカンの客層は20代の若い人が中心なんですが、学生演劇界隈だったり、多摩美の先輩後輩だったりと、あとはどこかで噂を聞きつけてくれた演劇を観るのが好きな人が多いのかなと思います。でも演劇を全然観たことがない人にも来てほしいです。

石橋
今回、西くんは子どもにも観てほしいらしいです。

西
そうですね。これまではどちらかというと「見たことない景色を」とか「言葉にならない感情を」とか、何かしら観た人の心に残るようなものをつくりたいという意識が強かったんですけど、今回は劇場に来た人が楽しめたかどうかという部分を大事にしたい。演劇のライブ性を重視しているのかもしれないですね。特に今回は。
ちなみに、この企画は今回で終わらせるつもりはなくて、ゆくゆくは『シラカンの西遊記』としてシリーズ化して最終的に100話つくりたいなと思っています。100話ってことは、1年で5本つくっても20年かあ……。ひとまず10本を目標に頑張ろうと思います。

取材日:2022年9月10日(土) 取材・構成:萩庭 真


【プロフィール】
2016年に多摩美術大学にて結成。2019年から現在に至るまで横浜を拠点に活動中。団体には劇作・演出家、俳優、舞台監督、グラフィックデザイナーの4名が所属し、それぞれが多角的に作品を支え合い集団創作を行っている。些細で、普段なら見過ごしてしまうような人や物事の偏り・歪み・噛み合わなさといった違和感に注目し、その違和感を独特な見立てや奇抜な美術の中で増幅して現す演劇作品を上演する。

左から西 岳、加藤 玲、岩田里都、石橋侑紀

【公演情報】
シラカン 『シラカンの西遊記 GO!!』
2022年10月1日(土)ー10月5日(水)
詳細:https://stspot.jp/schedule/?p=9078

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