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〜民俗芸能の灯火、踊り、新しい共有の形へ〜 おかっぱ企画新作公演『灯火ねんねん』末森英実子、若林里枝インタビュー|2018年6月

2018年6月29日(金)18:45STスポット

7月13日(金)〜15日(日)におかっぱ企画の新作「灯火ねんねん」が上演されます。上演に先駆けておかっぱ企画の末森英実子さん、若林里枝さんにインタビューをしました。
過去公演「竜の煙」を再構築する本作。
おかっぱ企画、STスポットに久々の登場です!


─最初に末森さんが一人でおかっぱ企画を立ち上げたのですか?

おかっぱ企画(左から末森英実子、若林里枝)

末森:はい、私が大学を卒業してすぐのときに始めました。制服にサングラスをかけた集団がラジオ体操をするという夢を何度も見まして。もうこんなに見るなら、いっそやりましょうと。それまで劇場での演劇公演ばかりやっていたので、そういうのと真逆なことがしたいという若い衝動もありました。野外で客席もない、時間も決まっていない神出鬼没なことをやりたいと。劇場でパフォーマンスを行うことに不自由さというか、圧迫感を感じていたんです。こういう道に進まず就職した友人に会うと「自由にやってていいね」と言われることがあります。ですが劇場で作品をつくることにも、組織に所属して働くのと同じような制約やルールがあるので、そこまで自由ではないのではと当時は考えていました。今は、それにはそれの良さがあると感じていますが。若林さんは桜美林大学の一年後輩で、最初は振付の一部をお願いしていましたが、途中からパフォーマーとしても出てもらうようになりました。


─今作のテキストに「与えられた台詞や振付を発することに違和感を覚え始め」とありました。これはお二人の実体験でしょうか?

『灯火ねんねん』稽古場風景

末森:ある演劇のオーディションを受けたときに、台詞を読む時間がありまして。実際のテキストは忘れてしまったんですけど、たとえば「お腹減ったなー」って台詞を読まなきゃいけないのに「でも私、今お腹減ってないしな」って思ってしまって、その台詞を言えなくてすごく気持ち悪くなったんですよね。その瞬間、自意識がものすごく過剰になってしまったんだと思います。
若林:私も大学を卒業したくらいから振付に違和感を覚え始めました。決定的だったのは、ダンススタジオでレッスンを受けているときに“波の動きをしてから次の動きに入る”という指示があったんですね。その時に、波の動きって何? と思って(笑)。それまでは波といえばこうだよね? みたいなダンサー間でなんとなく共有されていたものや、何をダンスと呼ぶかといったイメージを、たとえば全くダンスをしたことがないバイト先の人と共有できないなぁと思い始めて、ものすごく無力さを感じました。今まで信じて疑わなかったものが急に崩れ落ちていく感じがして……とてもショックでしたね。
末森:今までどうしてできてたんだろうって思うよね。
若林:そう、それまで平気で信じられてたけど、これを今隣にいる人とは共有できないって思って、何を踊ってるんだ自分は、みたいな(笑)。

─お二人の台詞や振付に対する違和感が重なり、そのような共有があって『センバツ』や『commons』に繋がったということですか?

若林:はい、もう一度舞台に立てるようになろうという、リハビリのような感じでした(笑)。恥ずかしいところもそのままやろう、みたいな。ダンサー・振付家の手塚夏子さんに出会ったのも大きかったですね。手塚さんの手法である“自分の体を観察する”というのを稽古でやっていたのですが、自分がやってきたダンスの価値観が変わりました。はじめは観察ができなくて、自分で勝手に決めつけて、こういう体はダメだと否定的に見てしまっていたのですが、手塚さんに「ダメとか良いとかじゃなくて、そのままを見る、自分でそれを決めるな」って言っていただいたことは、今でも強烈に残っています。
末森:自分の身体に誠実になるということをお互いに意識するようになったと思います。私の場合は、それまで演劇などの舞台活動を中心に物事を考えていたのですが、それって合理的なようで、実は自ら可能性を奪っていたんですよね。オーディションでの出来事は「そういう生き方じゃ、もう限界ですよ」と身体が教えてくれたのかもしれません。主体を自分にすると、縦にも横にも視界が開けるような宇宙観があって、ああ、私のまわりはこんなに広かったんだと気づきました。

─そのような流れで、若林さんは手塚さんが顧問を務める民俗芸能調査クラブ(*1)に入部し、民俗芸能と出会うわけですね

『灯火ねんねん』稽古場風景

若林:調査クラブのリサーチとして、愛知県北設楽郡東栄町御園地区の花祭り(*2)を一週間滞在して習わせていただいたことがありました。その体験が、今の創作の原点にもなっています。それまでのダンスの現場とは違う価値基準の中で、特別な身体訓練をしていない村のおじさんたちが、とても迫力のある踊りを踊っていたり、方言を使っているので何を言っているか分からなかったり……。と、今まで関わってきた現場とのあまりの違いに、カルチャーショックを受けましたね。そんな中とても印象的だったのは、地元の人たちがそれぞれ違うことを言うんです。「そこは右足からだ」と言う人もいれば「左足から」と言う人もいて、どっちだって(笑)。私がそれまでやってきた作品だと、どっちの足から出るかとか、どの方向に足を出すかとか、手の高さとか、ものすごく重要なわけですよ。でも、そうやってバラバラなことを言う人たちが、いざお手本を見せてくれると同じ舞にしか見えなくて。さっきあんなに違うことを言っていた人たちですか!? って思うくらい。それと、踊りの練習をしているときにずっとテンポが速いって言われていて、それがよくわからないままやっていたんですが、リズムに乗れているなと思えた瞬間があったんです。その瞬間、今までこの踊りを踊ってきた沢山の人たちの形跡を感じて、私は今、その土地のご先祖様たちの先頭で踊らせてもらえてるんだって感じたんですね。彼らが一緒に踊ってくれていて、最後まで私たちがちゃんと踊れるように力強く背中を押してくれているような……。
習いに行った時期が東日本大震災があった年の8月で、みんながどうすればいいんだろうって考えているときで、日本を離れる人もいれば、被災地にボランティアへ行く人もいたりする中で自分はなにもせずに東京にいて、どう行動すればいいのかわかならなくなっていて。そのタイミングで花祭りを経験して、とても救われたんですよね。踊りもそうだし、教えてくださった方との触れ合いにも感動して。ちょっと「ウルルン滞在記」みたいですけど(笑)。大学を卒業してダンスの世界で生き残ることをツンツン考えていたし、私だけでなく周りのダンサーにもトゲトゲしたエネルギーを感じていて息苦しく思っていたんですが、御園の皆さんや花祭りの舞の温かさを通して、自分もこういうダンスをつくりたいと思ったんです。これをもし舞台上で再現できたら、私と同じように救われる人がいるんじゃないかって。
末森:私自身は民俗芸能を習いに行ったことはないんですが、若林さんを通して知りたいと思っています。少し外から見守るような。もともと人には融合欲求があると思っていて。素粒子レベルでも融合によって何倍ものエネルギーが放出されたりします。子どもの頃に、地元の盆踊り大会に欠かさず行っていたんですが、みんなが浴衣を着て、輪になって踊る一体感、高揚感を、若林さんの話を聞くと思い出しますね。踊りの起源を感じます。

─前作『竜の煙』を今回再構成するとのことですが、『竜の煙』はどのようにつくりましたか?

『灯火ねんねん』稽古場風景

若林:おばあちゃんが亡くなったことが大きなきっかけでした。お葬式は業者に頼んで滞りなく終えたんですが、悲しくて泣いたりもしたけど、亡くなった実感が湧かなくて。亡くなってすぐだったからということもあったと思いますが、それまでリサーチしてきた民俗芸能にも必ず儀式があって、それは全くの部外者の自分でも共有できる感覚があったんですね。だけど、滞りなく行われたはずのお葬式は共有できるものを感じなくて。一番身近な人の大事な儀式で、今まで自分が見てきたどの儀式よりも一番共感できるはずなのに、なんでだ? って。画一的な形式張った儀式に対して疑問が湧いてきたんです。でも、初盆のときに迎え火を焚いたんですけど、なかなか火がつかず煙が立たなくて、あたふたしていたら急に煙がふあっと出てきて玄関に入っていったのを見たときに、今おばあちゃんが帰ってきてくれたんだということを家族が共有できた気がして、それまで抱えていた虚しさが、ぽっと消えたんですよね。
いろいろな宗教や多様な価値観、殺伐とした世界の中で、バラバラな思想や信条の人同士をなにが繋げるのか? と考えたときに、自分のご先祖様に対する敬意や感謝、弔いは万国共通だなと思いました。調査クラブでのリサーチで感じたご先祖様と一緒に踊っているような温かさやおばあちゃんの迎え火を焚くという儀式を通して感じた“死の共有”というところに、民俗芸能の本質があるように感じたので、まずは自分のご先祖様にイメージを向けて、感謝の気持ちを共有していく。個人の祈りを踊ることで他者と共有して繋がっていく。そういうことを目指した作品でした。

─本作はどのような作品にしたいですか?

若林:このテーマで作品をつくるのは、今回で4作目になります。最初の2作品は、私のおばあちゃんの葬式で感じた超個人的な実感をベースにつくっていたのですが、今作は出演者みんなの故人にまつわる話を聞きながらつくりたいと思ったので、タイトルを変えました。私が民俗芸能に感じていることは、祈りの力が受け継がれていくことなんですね。その土地に住んで受け継ぐことは今はできないけれど、舞台上で表現するという形で受け継ぐことはできるかなあと。それをお客さんに感じていただけたらと思っています。

『灯火ねんねん』稽古場風景

末森:前作と違って出演者の間でもイメージに対する距離感の違いがあって、でもそれはそのままにしつつ、どう嘘なくその距離感を大切にしたまま舞台に上げるのかに取り組みたいです。それから入り口が近親者なので暗く狭くなりがちなところを、お祭りのように明るく楽しくしていきたいですね。民俗芸能の素朴さ、力強さを体現できたらと思います。
若林:民俗芸能の共有感を舞台上で再現することはとても難しいですが、公演を経るごとに少しずつ、そこへ向かう手ごたえを感じてきています。今回は出演者が2名加わって、今までにはない共有の形を模索しているところです。その変化がこの作品に新たな広がりを持たせてくれていると思います。せっかくお盆の時期に公演をするので、観客のみなさんと一緒にそれぞれのご先祖様や亡くなられた方を思い出す豊かな時間に繋がるよう頑張りたいです。

 

*1:民俗芸能調査クラブ=2011年にダンサー・振付家の手塚夏子とSTスポットとの協働により始動したクラブ。主にアーティストの手法への可能性を主軸とした民俗芸能の研究を行うことによって、現代作家にとっての新たな可能性を模索した。現在は民俗芸能見つめるクラブと名前を変えて活動中。

*2:花祭り=毎年11月から3月にかけて奥三河の各地区で開催される祭り。国の重要無形民俗文化財にも指定されている「花祭り」は、悪霊を払い除け、神人和合、五穀豊穣、無病息災を祈る目的で鎌倉時代から代々親から子、子から孫へと伝承されてきた。およそ40種類にもおよぶ舞が夜を徹して行われる。

 

インタビュー:島 崇  構成:田中美希恵


【公演情報】
おかっぱ企画「灯火ねんねん」
振付:若林里枝 演出:おかっぱ企画
2018年7月13日(金)〜7月15日(日)
出演:鈴木燦 橋本規靖(かえるP)夕田智恵(モモンガ・コンプレックス)末森英実子 若林里枝
http://stspot.jp/schedule/?p=4484

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