2013年2月27日(水)〜3月3日(日)
『逆鱗に触れるまでの細くて長い道』はかぎりなく近い素材を扱った二本立てです。
《真昼間の章》は、白昼堂々、痴漢を行ったとしても、見つかったとしても、咎められたとしても、まったく罪悪感を覚えない三人の痴漢と、それに翻弄される五人の、一般人かどうかはわかりませんが少なくとも痴漢よりはまだしもまともだと信じ切っている人々、を巡る物語です。
《真夜中の章》は、電車の座席のシートを切るところを女子高生に目撃されても、犯行を認めようとしない往生際のわるい愉快犯と、激怒には激怒で返し、逆ギレには逆逆ギレで対抗し、罵倒にはさらに口汚い罵倒で応酬する、始末に負えない五人の不愉快な乗客たちを巡る物語です。
ざっくりいうと。
あまりにもざっくりいってしまいました。猛省します。実は、これが「物語」と呼びうるものであるかどうかさえ、疑問が残っているのです。
毎日、電車のなかでは信じられないような苛々する事態が起こり、信じられないことにわたしたちは苛々しないために、可能なかぎりそのような事態を無視しています。わたしたちが日常的に無視している事態が、もしも「物語」のかけらだとしたら。「物語」に巻き込まれたくなくて、ぎゅっと目をつぶって、無視することに専念しているのだとしたら。
そんなのは、嫌だ。
もう一度言います。念を押します。そんなのは、嫌だ。嫌だ。嫌すぎる。
あなたたちの「物語」を粉砕するために、わたしたちに出来ていること。
「物語」を粉砕するものが「物語」しかないなんて、信じたくないから。
「物語」から逃れようとする「物語」から、逃れようと、もがく、道筋。
綾門優季